21.痴女になるところだった

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21.痴女になるところだった

 初日なので簡単な部分だけ。そう前置きされたアイカは、本を広げる。順番通りに並んでいるらしく、初級、中級、上級に分類されていた。全部で四冊だ。最後の一冊は用語辞典だった。こんな本が作られるくらいだから、きっと外の人はたくさん落ちてくるのだろう。 「まず、常識の違いだが……どこの世界から来たかで変わる。今回のアイカが落ちた世界が日本と申告されたのだが、残念ながら数百年前に一人しか該当しなかった。そのため手探り状態だ」 「あ……はい」  日本の靴脱ぐ習慣が理解されなかった時点で何となく察してたけど、そんなに珍しい種族……じゃなかった、外の人なんだな。アイカは驚きながら頷く。とすると、どうやって常識の違いを判断するのか。促されて初級の目次に目を通した。 「この世界の常識一覧……禁忌事項、お金の管理……保護者制度」  意外にみっちり詰め込まれている。これは受験勉強並みの詰め込みになりそう。まあ、生きていくのに必要か分からない歴史や因数分解を習うより、よほど身が入りそうだけど。外国で一からやり直すと考えれば、このくらいの苦労は仕方ない。  知らない世界に落ちたアイカだが、悲観はしていなかった。愛猫も一緒だったので、あの子達の心配をしなくていい。常識が多少違っても保護されるらしいことも手伝い、保護者のブレンダもいる。将来は明るい。そう自分に言い聞かせた。 「まず、君の発言はあれこれ問題がある」 「はぁ……」  溜め息っぽい間抜けな返答が漏れた。何に問題があったのか、首を傾げるアイカに、三ページ目を開くよう指示したレイモンドが読み上げた。 「十二行目だ。ああ……げふん、えっとその……成人していると異性に伝えることは、交尾に誘うのと同じだ!」  言い淀んだ後、一気に読み上げた。直後、ごほんと咳を繰り返して俯く。やらかしたなぁ、と反省するアイカは肩を落とした。レイモンドは知らないが、すでに彼女には二度目である。未婚男性の前で着飾って求婚しそうになった。 「ふふ、はははっ。竜帝様は未婚だものねぇ。そりゃ照れるわよ」  豪快に笑ったブレンダが、あっさり前回をばらした。着飾って出迎えようとしたうえ、成人していると発言したら求婚して誘った痴女になってしまう。アイカは頭を抱えて蹲った。といっても、高さを合わせる机の上だが。 「言わないでよっ! ブレンダの意地悪!!」  叫んだ声に反応したのか、ぶぎゃーと汚い声で鳴きながらオレンジが走ってくる。ひょいっと身軽に机に飛び乗り、アイカの前で「フーッ」と威嚇した。巨大なドラゴン相手でも一切怯む様子がない。 「威勢が良いな……言葉が通じない猫がいるとは、確かに本物だ」 「ねえ、その本物って表現はどこから来たの?」  カーティスやブレンダも皆使う。本物と言われれば事実だけど、偽物の猫がいるの? と疑問が生じた。アイカの質問に、次は五ページ目の二行目を読むよう指示される。 「あ、なるほど」
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