36.アランさんを忘れてた

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36.アランさんを忘れてた

 教師役が終わったレイモンドは、翌日から猫の相手に通った。本物の猫の人気は高く、猫カフェを開いたら、大盛況間違いなしだろう。ただ、猫達が騒がしいのを嫌うし、ノアールに至っては人見知りだから。アイカは苦笑いしながら、窓の外のベンチに腰掛けた。  可愛い家族を見せ物にして稼がなくても、暮らせるだけの収入もある。その意味で、過去の外の人の努力に感謝だった。彼らが真摯にこの世界の住人と向き合ったお陰で、悪印象を持たれずに済んでいる。それどころか、生活補助などの仕組みも用意されていた。  何か役立つ情報の一つや二つ、さっとプレゼントできたら良かったんだけど。アイカは正直、申し訳ない気持ちだった。どんな知識が求められ役立つのか、まったく分からない。猫達に踏まれ、日陰を作る樹木扱いされるドラゴンを見ながら、ふと思い出した。 「あ、アランさん」  現在、この世界にいる外の人だ。名前の響きでは判断できないが、同じ地球の人なら助かる。でも英語で話されたら、笑って両手を振る自信があった。そう、英語は苦手なのだ。 「ねえ、レイモンド。以前話していたアランさんに会えるかな」  アイカが近づいて声をかけると、うっとりしていたレイモンドが大きな瞳をぱちくり瞬かせた。すっかり忘れていたようだ。目がぐるりと動いて、考える様子を見せてから頷いた。 「ああ、アランか。明日連れてくる。たぶん暇だろう」  明日連れて来られる距離で、たぶん暇? 不思議な言い回しに首を傾げると、彼は苦笑いして説明を始めた。  竜帝の屋敷に入り浸り、女性を追い回しているらしい。昨日もフラれていたから、暇だろうと辺りをつけた。そんな事情を聞いたら、会うのが急に嫌になった。面倒くさそう。でも別世界から来たなら、一度話しておきたい。 「ブレンダが私をこの街で初めての人間と呼んだけど、レイモンドは違う街から来てるの?」 「話したことなかったか。二つほど山を超えた先だ。最高速なら卵を茹でる程度の時間で着くが、誰かを乗せるともう少し遅い」  なぜか速度自慢をされた。街を二つではなく、山が二つ? 思っていたより遠い。そこから毎日通ってくるなんて、竜帝って暇な職業なんだろうか。かなり失礼なことを考えながら、アイカはにっこり笑った。 「じゃあ、明日はアランさんと来て。待ってるから」  きらきらと目を輝かせて「任せろ」と請け負うレイモンドは、気づいていなかった。待っている対象はアランだし、それだけ遠ければアラン単独で押しかけられる心配もない。都合がいいと、アイカが内心で安心したことを。  同時に、レイモンドが遠距離を苦にしていないことも察して、なんとなく気分がいい。そんな二人のやり取りを見ながら、ブレンダは苦笑いした。 「凄いだろ、トム爺。あれで自覚がないんだからさ」 「君に似たんじゃろ、ブレンダ」 「おや、言うねえ」  狼を膝枕する熊という絵面は、不思議と違和感がない。この世界では、どの種族でも関係なく両親に似ない子を授かるのだから。この光景は、この世界の常識だった。
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