巡り逢いて

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 前世での私の最期の時から、数百年の時が流れた。  私は、鎌倉ではなく、江戸という土地に住まう徳川という家の将軍家の世継ぎに生まれ変わった。前世の私は、生まれ変わった今生の私の潜在意識に、ときどき語りかけることはあるけれども、今生の私が、前世の私の姿をはっきりと思い出すことはない。  まだ少年である今生の私は、多くの書物を広げている。  御成敗式目、前世の私の従兄弟、北条泰時がつくりあげた傑作だ。漢字が読めない坂東武者が多かった前世の時代とは違って、今生の私の時代では、寺子屋が相当普及しており、庶民の子でも読み書きが達者な者が少なくないらしい。御成敗式目は、その寺子屋で手習いの手本として使われているらしい。  吾妻鏡は、前世の私の時代の歴史書だ。貞観政要は、前世の私も読んだ。吾妻鏡と貞観政要は、今生での私の先祖、徳川家康が人生の書として、愛読したという。  そして、金槐和歌集。言うまでもない、前世の私がまとめた自分の歌集である。  
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