過去

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過去

 俺が死のうとしたのは、もう十年も前の事だった。今のこの女と同じような状況だった。  恋人だと思っていた女の借金の保証人にさせられ、やくざどもに追われる羽目になった。来る日も来る日も、取り立てと嫌がらせは続いた。  女を殺して自分も死ぬ気だったが、ボクシングをしていた身体は、簡単に死ぬことを許さなかった。  水死できずに過失致死で三年喰らい、出て来て今の職に就いた。先代は俺を気に入り、何かにつけ気にかけてくれた。こんな形で恩義を裏切るような事になろうとは、考えてもみなかった。  女の話が全部が全部嘘だとして、だがあの腕の傷痕だけは事実だ。俺はそれに、賭けてみたいような気分になった。どうせ捨てたような生命だ。死なせた女への、償いぐらいにはなるかもしれない。
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