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時間になり、マンションの正面玄関に旅行鞄を持った女が出てきた。長い髪を後ろでまとめ、白いワンピースを着ている。女の耳には、あの真珠のピアスがあった。フロント・ウインドウ越しに、眼が合った。もうその目は、ガラス玉ではなかった。俺の視線を受け止め、意志を返してくる。小さく頷き、俺は外に出た。
ワンボックスの運転席に歩み寄り、窓を叩いた。金髪の無精髭がこちらを見た。俺は持っていたスパナで窓を叩き割った。派手な音がした。続けて腰に挿しておいた、護身用の催涙スプレーを車内に撒き散らした。無精髭が顔を押さえてむせ込んでいるのを確認して、レンタカーに戻った。マンションの前に回し、女を乗せる。
「もって数分てとこだ。急ごう」
女が頷いた。
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