籠から出る時

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 首都高速を下りて、空港の敷地内に入った。あとひと息だ。  レンタカー用の駐車場に車を入れようとした時、不意に猛然と一台のSUVが接近してきて、女の乗る助手席側に突っ込んだ。強烈な衝撃が俺と女を襲い、女の身体が妙な揺れ方をして、折れ曲がった。SUVのフロントがもろに、助手席に突き刺さった恰好だった。  朦朧とする意識の中で女を呼ぼうとして、俺は女の名前すら聞いていなかった事に、今更気づいた。それに今呼んでも、女は答えられなかった。あのガラス玉の瞳は見開かれ、蒼白い顔は血に濡れていた。白いワンピースも真っ赤に染めて、女は死んでいた。  俺は軋む体を運転席から引っ張り出し、外に出た。日が暮れ、空はオレンジ色に染まっていた。何度か膝をつき、立ち上がり、追突してきたSUVに近づいて行った。
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