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早速、事の次第を聞かせてもらいましょう。
毬円がそう言うので、環は数十分前に尚親に話したものと全く同じ話を繰り返し語った。
尚親に話した時は不思議と昂揚感に似たものを感じていたのに、二度目となると妙に気持ちが冷めてしまっていた。
いや、実際。
私、こんなところで何してるんだろ。
話しながら、心ここに在らずになってきた。
いかにも危険そうな男にまんまと騙されてあっさり捨てられ、ささやかな復讐を試みては失敗して捕獲され、都会の片隅にある不審な雑居ビルに連れて来られ、隣には謎の美女、後ろには強面の兵士、両方からの視線と傾聴を痛いくらいに感じながら、他人が聞けばどうでもいいようなよくある失恋話を暗澹とした口調で語っている。
何だか自分がとても馬鹿な事をしているような気がしてきた。虚しくなってきた。
なんかもう、帰りたい。
帰ってゆっくりお風呂でも入って、お酒は強くないけど缶酎ハイでも飲んで、お菓子食べながらハッピーな少女漫画読んでゴロゴロしたい。
復讐とか、もうどうでも良くないか。尚親の言う通り、腐った卵ひとつぶつけたくらいで章二の腐った性根が直る訳でもあるまいし。
そういう気分になってきた。
「──で、そちらの…成田さん?に捕まりまして。どういう訳か、ここへ連れて来られた次第です」
半ば投げやりに環がそう締め括ると、毬円は深い溜息を吐き、憂いを帯びた表情で首を左右に振った。
「……辛い思いをしたのね、タマちゃん」
タマちゃん?
唐突に距離感を見失いそうな渾名で呼ばれ、環は戸惑う。
だが同時に、心底同情した様子の毬円の態度が嬉しくもあった。
「そ、そうなんです。遊ばれたって事実だけでももちろんショックだったんですけど、その後の開き直った軽ーいメッセージが本当に腹立って」
「わかるわ。女の敵ね」
「そうですよね⁈大体あいつネットでは顔だけ棒演技俳優で有名なんですよ。演技巧かった?とかどの面下げて、恥ずかしげもなくよくもまぁ」
「許せないわね」
「ですよね⁈許せませんよね⁈」
毬円の同調のおかげで、風前の灯と化していた章二への怒りが甦ってくる。
「そうね。とりあえずぶち殺しましょう」
「え?」
「ぶち殺しましょ。その男」
二回聞いて尚耳を疑ったが、どうやら聞き間違いではないらしい。その証拠に、背後に立っていた尚親がソファの背もたれに手をかけ身を乗り出して「アホかお前は」と毬円に噛み付く。
「そういう事態を起こさない為に、ここに連れて来たんだぞ。辛い恋愛で傷付いた心を癒し、恋に悩み迷える人々を導く仕事だとか言ってたじゃねぇかよ。火に油注いでどうすんだ」
「だから導いてるじゃない。そんなクソみたいな男はね、何しても無駄。生まれ変わりでもしない限り反省する事なんてないわ。つまり、今世ではとりあえずぶち殺すしかないわね。ねぇタマちゃん、得意な武器は何?」
毬円は意気揚々と席を立ち、デスクの下から大きなダンボールを抱えて戻ってくる。
「今ここにあるもので使えそうなのはー…あんまりないわね。ロープとスタンガンはちょっと改造すれば使えるかな。催涙スプレーは致死力ないよねぇ。家に帰れば弓道部にいた時使ってた弓矢もあるけど、慣れないと的中させるのは難しいし私も鈍ってるからなぁ。あっ、呪いの人形もあるわよ。ブードゥー人形と藁人形」
箱の中のガラクタをぽいぽい放り投げながら、浮かれた様子で使えそうなものを見繕っている。結構な勢いで放り出されたブードゥー人形らしき物体が、ひゅんとこちらへ飛んできて尚親の顔面に当たる。隣の空席にボトっと落ちたブードゥー人形とこめかみに青筋を浮かべた尚親を見比べて、環はひぃっと悲鳴を上げた。
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