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そこで、文科省が文化人を主人公にした娯楽映画でこどもたちの興味を掘り起こそうと考えたらしい。
目論み通り、映画はヒットして、連続ネットドラマ化が決定したわけだが、ここで問題になったのは劇中音楽ーサントラである。
映画版は、ボカロ制作グループの「朝までやるぞ!ALL!ALL!」(略称・ALL!)がサントラを担当したが、古きよき時代劇を知る世代からだけでなく、ターゲットにしたこどもたちからも不評の声が上がった。
あまりにリズムや曲調が現代的でありすぎるという。
こういう声は、最近、ヒットした他の作品でもあり、もっと昭和的サントラを!という声が大きかった。
実は「はんなり夫婦捕物帳」を執筆したとき、私は、昭和期に時代劇やドラマの作曲家として知られた山上武雄という音楽家のファンキーでロックなサントラを聞いていた。
試に「はんなり夫婦捕物帳」の動画サントラを山上のそれに付け替えて、プロデューサーに聴かせると、
「麻穂ちゃん、これイイネ!」
と言ってくれた。
その好反応に、
「いっそうのこと、山上サウンドで入れちゃいましょうか?」
と私が調子にのって提案すると、
「いや、それでも著作権の問題もあるしね。いえ、音楽じゃなく付けたドラマの著作権が絡んでるしね」
とプロデューサーが肩を落としていった。
がっかりして自宅へ戻ると、ヒト型AIのファンシーヌが出迎えてくれた。
ファンシーヌは10歳くらいの女の子をイメージした人型AIで、私のような独身女の話し相手になってくれるために制作されたもので、私が話すことばにオウム返しのようにこたえてくれる。
定型文的返し方だが、相手が求める返答というものを期待値というあらかじめ入力されたもので予測して出してくれる。
それが、私にとって最良の癒しになってくれるのだ。
私はパソコンに向かって、山上サウンドを口ずさんだ。
すると、ファンシーヌがそれを聴いて似たような曲を歌った。
それは私が口ずさんだものとは似ていたが、まったく違う曲だった。
「ファンシーヌ、ちょっと、これを聴いてもらえる?」
私はオンスピーカーにしたパソコンから山上サウンドを何曲か流すと、それとは違った、それでいて山上テイストの曲をファンシーヌが返してきた。
「これよ!ファンシーヌ、あなたが歌った曲を全部、このパソコンにダウンロードして頂戴」
パソコンのDLバーがどんどん緑色に染まっていくのを見て、私の目は輝いた。
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