AIが奏でる昭和OST

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実際に放送されたドラマの反響は大きかった。 なにより昭和的サントラが良かったとの声が多かった。 だが、その一方で反感の声も出ていた。 この時期、ブームになっていた新しい音楽ジャンルである「デジタルラグ」や「スイングバップ」の旗手たちであり「ALL!」のリーダー佐橋軍兵衛がその中心であった。 若干27歳の佐橋は、日頃から国粋主義的意見をSNSで発信したりして、ネトウヨと呼ばれる層から人気があった。 逆に「サウンドセッション」のリーダーPINTAは、レフトサイドからの発信が多く、実は地下アイドル時代の私も「地球をいじめないで」などの攻めたタイトルの曲を歌わされたりしていた。 72歳のPINTAは大御所である。 彼を先生と呼ぶミュージシャンは多くいて、今回の件で音楽著作権団体からの圧力が加わると「PINTA」を守れ!と結束した。 老体のアナログ演奏者とデジタル音楽の旗手の対決という、まるで昭和末年の音楽業界のような対立構造が出現した中、いくつかの事件が起きた。 私は文京区に住んでいるが、この地区で条例で禁止されているはずのドローンが、自宅マンションの周囲を飛び、ときにはべランドを覗くように空中停止したりしていた。 そのことに最初に気づいたのはファンシーヌだった。 彼女は、そのドローンが一機数十万円もする軍事用の機種であることを教えてくれ、透視防止機能付きカーテンへ交換を勧めてくれた。 嫌がらせはこれだけではなかった。 ハッキングでされているのか、私が契約する回線が使えなくなり、仕方なくファンシーヌがヒト型AIに許されている非常用回線を利用して、日用の便を計るしかなくなった。 いつもファンシーヌと親子のように、どこへでも出かけた。 事態が急変したのはその年の秋だった。 まず「はんなり夫婦捕物帳」の配信が停止された。 知財裁判所に自動生成された山上サウンドの著作権侵害の訴えが起こされたためである。 さらに、山上サウンド生成に欠かせない音楽AI「アレンジャー」の日本向け提供が停止された。 この状況下でPINTAが提案したのは山上サウンドのレコード化である。 それも圧力にさらされた国内市場ではなく海外で売ろうということであった。 「麻穂ちゃん、ボーカル頼むよ」 私は引き受けた。 「アレンジャー」の停止で、音楽生成はファンシーヌが担当した。
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