AIが奏でる昭和OST

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ファンシーヌのストレージ情報を解析すると、ショッピング履歴が詳細に出て来た。 それによると、あの日、レコードの再生音に触れたファンシーヌは、長年の学習履歴から、それが私の好きな音楽だと理解し、それを必死に覚えようとしたが、レコードの再生音領域があまりにも広くて、一時的にメモリーが圧迫されてバグを起こした。ストレージにもそれらがたまるので、どこかへ逃がさないといけない。再生中、私が「レコードにして売らないと」とぶつぶついったことを、事実上の命令としてとらえ、同期したショッピングサイトに注文が繰り返され、その中で、企画と発注金額を受け入れたアフロディーテ諸島が受注したというのだ。そこから先は、すべてアフロディーテ諸島のAIがECパレットなどと呼ばれるBtoC販売戦略システムを用いて、日本市場向けに売りさばいたのである。 あの見事に再現されたレコードの高音は、音域をカットせずに高解像度音質で取り込み、それに主に高齢者の聴覚補正用に音域を合成する技術を併用したため、私のような中高年にもまるで少女時代に聴いたような音楽として受けとめられるのだった。 後日、私が聞いたところでは、一連の意思決定プロセスにヒトは一切関わっていなかったという。 昭和音楽ブームが再来し、昭和を模した各地の商店街では、これらの音楽が流れたし、私の後輩の地下アイドルたちも昭和歌謡をステージで披露したりした。 なぜか地上波のCMも昭和的なものが多くなったが、その方が分かりやすくて売れるからだった。 私も「はんなり夫婦捕物帳」に続いて、寛政年間を舞台とした「怪傑!紫頭巾」の執筆に追われていたが、缶詰にされている新宿のホテルの前を街宣車が頻々に出現するようになり、私への批判を大音声で浴びせてきた。 AI昭和サウンドによって失業させられたミュージシャンらの嫌がらせだった。 ホテルは防音が施され、新宿警察署も対応してくれていたから、私は、地下アイドル時代の恋愛スキャンダルとかを連呼されても気にはしなかったが、さすがに私の部屋の上階にドローンが自爆突撃してきたのには驚き、警察の推奨もあり、新宿区内のとあるマンションの地下階に避難した。 だが、そこも安全ではなかった。 夏に入り、まず停電が起きた。 次いで、水道管がどういうわけか開放状態になり、マンションの地下階が水没した。 私はずぶぬれになりながら、ファンシーヌを抱きかかえて地上に出た。 そこには、「ALL!」の佐橋とその取り巻きのネトウヨたちがいた。
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