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「アンタのおかげで、みんな派遣落ちよ」
佐橋がいうと、ネトウヨたちがデジタル・ダーツを構えた。
「殺される前にいうわ。AIがファンに支持される音楽を作ったのなら、あなたたちもAIを超える音楽を作ったらいいじゃない」
私は勇気を振り絞っていうと、
「そう簡単にはいかないんだよ。テキスト・イラスト・リーガル・・・・・なんでもAIがやるようになって、最後の牙城だった音楽も陥落した。ヒトが作るカルチャーはもう存在しないんだよ」
佐橋がいったとき、ファンシーヌが刮目し、
「ファラソファ、シシ、ファラソファ、シシ♪」
と歌い出した。
その不思議なリズムの音楽に耳を奪われている佐橋に、
「ジョージ・ガーシュインの『魅惑のリズム』よ。日本の年号でいえば大正14年の曲よ。この時代に、Bフラット7やEフラット7を多用して、これだけのリズムを作ったの。これこそ天才が成せる技よ。ただの技巧のみではなく暖かみのある音楽。こんな曲、AIに作れて?」
と私が解説してやった。
茫然とする佐橋の前にPINTAが現れた。
「過去の音楽を学習するだけのAIには作れない音楽だ。大学受験だって、AIには未だ70%しか予測できないそうだ。今、AIがもてはやされてるのは金がかからない音楽だからだ。でも、いずれは、かつて打ち込みがテレビやCDの主流になってあきられたように、おれたち生バンドの時代がやってくる。人間の耳は変わらんさ」
返す言葉を失った佐橋に、私はたたみかけるようにいった。
「いいこと教えてあげる。AIも究極に達したら、このガーシュインのリズムに行くつくそうよ。つまりシンギュラリティーのひとつの形があるわけ。これが、もしシンギュラリティーだったら、あなたたちにも超えられるんじゃない?かつてラベルを追い越したガーシュインのように」
佐橋はネトウヨたちに振り向いた。
「お茶の水に五線紙を百枚買いに行こう。拘置所でも曲は書けるだろう」
そういって、ようやく街宣車に乗り込む彼らを、私とファンシーヌ、PINTAはある感慨を持って見送っていた。
(了)
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