AIが奏でる昭和OST

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AIが奏でる昭和OST

私は朝倉麻穂子。 40歳の脚本家だ。 2035年の現在、主にネットで配信される時代劇を書いている。 1996年頃までテレビの地上波では時代劇が盛んに制作されていたが、個人視聴率がどうやら、斜陽のテレビ業界の慢性的予算不足でどうやら、てなわけで時代劇というものが制作不可になってしまった。 そのうち民放というものが経営難からか総務相の肝煎りで「日本民間放送ホールディングス」というものに統合されてしまい、最初、4=総合・スポーツ、6=ドラマ・映画、8=バラエティー・お笑い、10=報道、12=アニメ、 などとなっていたのが、いつのまにやら、3チャンネルのみになってしまった。1、2は国営放送のままだが、これも往時とくらべて、ニュース・天気予報・災害情報くらいになってしまった。 国民の反感で、かつてあった受信料というものが、スクランブル放送の導入で、事実上、廃止されてしまい、また国の方針もあって、朝ドラとか、大河ドラマとかのお金がかかる番組は全く制作されなくなってしまった。 地上波の統合で空いた電波帯域は、インターネットと電話に解放され、この帯域でネット動画を見ることが国民の娯楽になってしまっている。 それでも昭和を知る世代がまだ生きているこの時代、新しい時代劇への渇望はすさまじく、主に平成年間に出版された膨大な時代小説を、クラウドファンドで集めた製作費で映像化することが流行った。 ネット配信が主なので、最初は一話30分とか、昭和30年代のテレビドラマかよ、という低予算番組が多かったが、最近は一時間ものもやっと作られてくるようになった。 それでも四回シリーズなどが主流だったが、昨年、私がオリジナルで描いた「はんなり夫婦捕物帳」劇場版が大ヒットして、これを一時間ものの連続時代劇として、なんと26話制作することになった。 この「はんなり夫婦捕物帳」は、江戸中期、京都に実在した画家の池大雅と玉蘭夫妻を主人公に、寛政三奇人の一人・高山彦九郎をモデルにした自称勤王郷士と貧乏下級公家の姫との恋物語に、明和事件と呼ばれる幕府による勤王派弾圧を絡めた娯楽巨編だったが、これは、実は文化庁と総務省の後援を受けてのものだった。 2020年ごろから、学校の社会科では、歴史上の人物について、主に文化人を教えるようになったが、こどもも学習漫画やネットでの過去の歴史ドラマで目が肥えているので、これらの内容が面白くないと思ってたようだ。
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