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「エクトルが楽しそうだ」
「そのようですね。ここ辺りは危険もなさそうですので、まあ大丈夫でしょう」
キノはゼナイドがひたすら掘り起こしていく土を道具で篩にかけながら慎重に見ていた。
「キノ」
「はい」
「キノは、魔法地学? を研究してい「その通りですので」…その、だったら、魔法に詳しいか?」
「ゼナイドさんの言う、詳しいという程度にも寄りますので、肯定は難しいですが、ゼナイドさんよりは知っているかと思います。キノは大陸魔法師団の研究職を目指していますので、それなりに基礎は学んでいますので」
「私は今まで、魔法についてあまり知らなかったんだ。つい最近、エクトルとローハから、ざっくりは教えてもらったんだが」
魔法の属性は4つある。青系統の水・土。赤系統の火・風。
「例えばなんだが、『氷』の魔法は、あるのだろうか」
篩を細かく動かして一粒一粒を見極めながら、キノは悩む。「ウ~ン、見つかりません」
「やはりないのか」
「あ、えーっと、スミマセン。星の砂が見つかりません。ただこの付近にはありそうですので、もう少しあちらへ行きましょう。大丈夫、エクトルさんからはさほど離れませんので」
ふたりで掘り返した地面をある程度平らにして、キノが指さした方向へ向かう。
「ではお願いします」そう言って、ある程度はふたりで地面を掘り起こし、土が溜まってきたところでキノは先程動揺の作業を始める。
「ええと、氷の魔法、についてですが」
あると思います、とキノは言った。「魔法は、潜在的に持っているイメージを具現化した結果ですので」
氷を扱う場合は、青系統、水の魔法を使う延長にあるという。「いや、もしかしたら風で温度を…の可能性もありますか。しかしイメージが簡単なのは水の固体、という場合ですので。恐らく」
「じゃあ、珍しいことではない、から、隠す必要はない?」
「ゼナイドさん、お使いになるので?」
「いや。私はアイテルマノの血はない。だから、その、例えだ」
「あまり聞かないようにしましょう…ウ~ン、とはいえ、一般的な魔法使いとは離れています。けれど、そういう例はないことはありません。例えば返しで、ニノ――あ、キノの姉ですので。ええと、ニノもキノのように、土魔法を使います。ニノは魔法を使うことは少し不器用で、魔法師団に入る技術は今はありませんが、能力だけで言えば、キノはニノに負けます」
キノが篩の手を止める。「例えばキノは」
そう言ってキノは、篩を持たない手を下から上へ持ち上げた。その動きと同時に、ゼナイドの目の前の地面が鋭く盛り上がった。思わずゼナイドは後ろへ半歩下がる。
「このような土魔法を使います。一方ニノは、さらに植物の成長を早めることができます。同じ土魔法ですが、効果は違いますね」
ニノの使う魔法は、土に眠る種子などを急速に成長させたり、訓練次第では成長した植物を自在に動かすことができる。
「一般的な土魔法では、植物の成長を操作するなんてことはできないと思われます。同じく、一般的な水魔法では、氷で発現させるということはできないと思われます」
いまいち話を飲み込めない様子のゼナイドを見て、キノは表現を変えようと考える。
「魔法の効果を理想で語るのは簡単です。しかし、実際にやってのけるには、その方自身に、強い潜在的なイメージ…いや、原理と言いましょうか、それが必要ですので」
「…”土”魔法から植物を、”水”魔法から氷を、普通は、使える程度にはイメージし難い?」
「そのような認識でよろしいかと。そのイメージだとか原理についてが、実に曖昧ですので、魔法は解明しきれていません」
キノは再び、篩と睨み合う。
「理解からかけ離れた存在か…」
「キノはそのような方々を、心のなかで天才と呼んでいます」
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