星の砂

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星の砂

 エクトルが、リルレに来てから11年が経つ。  ディリガと、その娘トウナと暮らす日常が、かつて故郷で暮らしていた12年間に追いつこうとしていた。  この世界には、青い太陽と赤い太陽が昇る。  青い太陽が昇って落ちて、短い星の時を挟んで、赤い太陽が昇る。  赤い太陽が落ちれば、長い星の時を経て、1日と数え、再び青い太陽が昇る。  ディリガはこの世界の、大陸での文化など――大陸史を研究していて、リルレの町の自宅では、自室で資料と睨み合っている。  時々長期間リルレから飛び出して、実地へ赴いたり、大都市レッハルトへ行き、そこでも研究をする。  そんなディリガのある時の実地研究中にエクトルは彼と出会った。こうして今エクトルが、ディリガの家に住んでいるのはそのためだ。  娘のトウナは、青い太陽の時の間、リルレの宿屋で働いている。青い太陽が落ちきる前に、家へ帰ってくる。  短い夜の時、赤い太陽が昇る前に、今度はエクトルが働きに行く。星の時を繋ぐ赤い時間に開けられる酒場だった。おかげでエクトルの料理の腕はなかなかのものになった。  家主のディリガがいなくとも、ふたりは生活をしていけた。 「今日はホント、遅くなるから。さっさと寝てなよ」  明らかに生活時間の違うエクトルの帰りを、トウナは大半の日を起きて待っていた。  エクトルにとって、トウナは妹のような存在になっていた。トウナにとっても、エクトルは兄のような存在であってほしいと、エクトルは思う。  トウナは少し考えるような表情を見せて、頷いた。「起きたくて起きてるだけだよ」 「いや、だからそれがなんか逆に申し訳ないから…」とはいえ、待ってくれる相手がいるのは悪い気はしない。  無理はしないように、と一言つけて、エクトルは家を出る。
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