星の砂

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 エクトルは”天を知る民(ミーティー)”と呼ばれる、今となっては大陸上では集落は存在しないヒュマノの一族である。黒髪、緑色の瞳が特徴的な、銀の民に並ぶ伝説の一族。  銀の民と違うのは、存在を認知されていた点がある。生ける伝説だった。大陸中の大半の者が、ミーティーを神格化していた。  銀色の龍の嵐によって壊滅した今、ミーティーは亡き伝説となった。  ミーティーは天候や、大陸に起きる大きな出来事を予測できる者達として重宝された。  ミーティーの不思議な点は主に2つ。  どのようにして未来を予測していたのか、という方法について。  銀色の龍の嵐を予測し回避はできなかったのか、こちらについては、予測ができたのか否かという点でまず説が別れている。  こういった大陸にいるヒュマノやアイテルマノの文化や歴史についてを、大陸史としてディリガは研究している。実際ミーティーについての研究の最中に、ディリガはエクトルと出会ったのだ。  現段階の研究では、ミーティーはヒュマノで、魔法を使わない。実際そうだった。ミーティーは魔法を嫌っていた。それなのに、エクトルは魔法を使う。だからエクトルは、ミーティーの里では忌み嫌われの対象だった。  エクトルの母は、ミーティーの里の長だった。その子供が、魔法を使うとなった時、一時は里内が大変な事になったが、次に生まれた、エクトルの妹が間違いなくミーティーであると誰もが認めたことで落ち着いた。同時にエクトルは、ミーティーの中では人として扱われなくなった。  だからエクトルは、外からやって来たディリガへ助けを求めた。 「魔法は使えて悪いことはありません。隠す必要はないと思いますので」 「隠すことが、当たり前になっちまってさ」 「リルレの皆様なら、大丈夫ですので。それに、キノやゼナイドさんも。あと、氷の魔法も特段特殊ということはありません。先程も言いましたが、恐らく水魔法にあたりますので」 「そうなのか?」 「恐らくです。ご興味があれば、魔法師団の鑑定に行くのもいいですね」 「でも俺、血の色赤なんだけど」 「必ずしも血の色と同系統の魔法のみ使えるわけではないので。ほら、今の人はいろんな混ざり方のアイテルマノがいますし」 「ミーティーはヒュマノだろ?」 「大陸史の一説では、ミーティーはアイテルマノで、魔法で予測していたのでは、という方もいらっしゃいます。原理がわかりませんので」  エクトルは自分の手を見つめる。自分のことを知っていくのは、悪くないと思った。どこかゼナイドへ羨望の気持ちがあるのは、このあたりから来ているのかもしれない。  ゼナイドがなかなか帰ってこない。キノは気にしていない様子で、篩に土をかけている。エクトルも、また木の上のスナクイリスを捕まえようかと思い直した頃だった。  木々の鳥達が一斉に飛び立った。  ゼナイドが向かった方向から、大木が折られた音が聞こえてくる。それから、何か木が倒れていく音。  エクトルとキノは顔をあわせて頷く。エクトルは走り出す。キノも道具を投げ捨てて、エクトルの後を追った。
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