星の砂

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 翼の暴れ具合に翻弄されながら、ゼナイドはシュエータから微かに冷気を感じる事に気づいた。まるでシュエータがこれから凍らされるかのような鋭い冷気。だがそれはキノの絶叫にも近い、エクトルの名を叫ぶ声を境に落ちて消えてしまった。  キノの叫びと同時に、シュエータは走り出す。キノの方向へまっしぐらだった。キノは迫りくるシュエータに気付かないようで、そのキノの視線の先には倒れたエクトルがいた。  キノを蹴飛ばし、エクトルを踏み潰そうとするシュエータを想像したゼナイドは、剣を引き戻し、鞘の重厚な留め具を外した。  一振りして鞘を落とす。シュエータは無意味な激動で体力を奪われたのか、最初より随分とスピードが落ちていた。キノも気付いたようで、慌ててエクトルの方へ駆け寄る。そんなシュエータにゼナイドの走りが追い付くのは容易いことだった。  ゼナイドが走りながら剣を振り上げ、地面を強く蹴り上げる。跳躍し、落下するスピードを利用して、細くも銀色に輝く剣をシュエータに落とした。  銀の剣はシュエータをすり抜けるように、最早シュエータなどそこにいないかのように落ちた。シュエータには刺さっていない。  シュエータは傷ついた素振りを見せない。どう考えてもシュエータ刺さるはずの剣は刺さらず、シュエータの少し先の地面に落ちた。  シュエータは動いている。羽毛や血が飛び散ったり、苦しむなりとなんらかの反応があるはずなのに。  ゼナイドが少し遅れて着地した。  キノはエクトルが気絶していることを確認し、シュエータがキノのいたところで身動きしないことに気付く。次はこちらに来る、と覚悟したキノはなんとかエクトルと逃げる方法を考える。  シュエータはこちらに向かなかった。 「ごめん、キノ」  ゼナイドは、キノとエクトルの近くに立っていた。 「私が君達から離れたばかりに」 「いえ…エクトルさんよりは遥かに危険性がないと判断しましたので…キノも不注意でしたので」 「…あと、アレ、食べようとしていたよな?」 「はい…ですが、そんなことどうでもよく…キノも少し危なかったので、逃げましょう…エクトルさんがぶっ倒れたので…」 「いや、アレはもう大丈夫なんだ。ただ食べれないんだ。銀の剣で触れてしまったから」  キノはシュエータに目を向ける。シュエータはその場で崩れ落ちるように倒れた。それから少しして”死喰虫”と呼ばれる、死骸に寄ってくる虫が大量に寄ってきた。  死喰虫は、放置された死骸に寄ってきたりわいたりして、死骸を喰らっていく。喰らった死骸は跡形もなく消える。また、喰らっていく中で虫たちの体は赤か青の光を発光する。その様子は、自然界の中でもなかなかどこか儚くも美しい景色であると旅人の中では通説だ。  しかし、死喰虫が死骸に寄って来るのは、普通はもっと遅い。死骸が転がって、大体1回は太陽が昇って沈む時間が必要だ。今は、シュエータが絶えて、一瞬で寄ってきた。  死喰虫が青く光る。シュエータの身体は青い死喰虫に覆われて消えていく。 「死喰虫が…食ってますので…?」 「そう。あの銀の剣で斬ると、あいつらがすぐに寄ってくる。何故だかわからないんだ。あの剣は、私の母からもらった、大切なものなんだ。大事にしたい。大事にしている」  ゼナイドが徐ろに歩き出す。シュエータとの猛攻で顔や腕にところどころ擦り傷がある。少し力無く歩きながら、落とした鞘を拾って、剣を収める。ガチリと留め具を締めた。
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