星の砂

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 耳元で何かを囁かれている。正直人の囁き声はあまり好ましくない。どこか消えてくれないかと思っていると、頬を叩かれている感触に気付く。「エクトルさん、エクトルさん」  ぼんやり目が覚めると、覗き込んでくるキノがいた。辺りは薄暗い。青焼けの空がある。「お」 「あれ、俺、なに? どういう状況?」 「ええと、応戦の末、エクトルさんは意識を失いました。魔力切れでしたので。あと、シュエータは倒せて、その後キノとゼナイドさんで星の砂を採って、青が沈みそうなのでそろそろ起きないかなぁ…という状況ですので」 「ゼナイドは?」 「篩で砂を見ています。あの作業、ゼナイドさんどうやらお気に召したようなので、キノが砂を集めています」 「楽しいな、これは」  キノと反対から、ゼナイドの顔が入ってきた。よく見ると、いつもよりウキウキとした表情に、薄い擦り傷というか、引っかき傷のようなものがいくつかある。  キノは、ゼナイドから篩と、星の砂を集めている小瓶を受け取った。 「おお! これくらいあれば、0.5gはあると思いますので」 「そうか」 「はい。このあたり、随分多く採れたでしょう。水辺もありますし、エールテーレはこの辺りにいた可能性が高いので」 「じゃあ、帰って薬屋のところに持っていこう」  な? と賛同を求める瞳がエクトルに向く。寝転んだままのエクトルは、そのまま数回頷いた。  キノが小さな身体を目一杯伸ばして「お疲れですので!」と言った。 「立てるか」ゼナイドが手を差し向けてくれた。エクトルは、何も考えずにその手を取る。  力強く引っ張られ、エクトルの背中はすぐに地面から離れた。踏ん張らなければ、と思った時には身体は前のめりになっていて、そのままゼナイドにもたれかかる形になった。  頭がぐらぐらした感覚に襲われ、身体が重い。ゼナイドから感じられる体温と、土と血なまぐさい臭いに混じる優しい匂いでなんとか意識を保とうとする。  この状況は、何かまずいのでは? とエクトルは目を下に向けるとキノの視線とぶつかった。「えちぃ」 「すまん」  キノの一言に殴られたような感覚を覚えつつ、ゼナイドから全力で離れた。片膝をついて、息と感覚を整える。深呼吸をしてみても、頭のふらつきはやまない。 「いや、まあ、魔力切れは、仕方ありませんのでね」 「貧血みたいなものだろうか」 「そんな感じですので」 「大丈夫か、エクトル。あ、大丈夫ではないか」 「薬屋さんで、魔力切れの症状に効く薬を買いましょう」 「リルレまで距離がある。私の肩を貸すから、ゆっくり歩こう。なんならおんぶだ」 「いやそれは…」  エクトルはリルレまでは頭のふらつきを我慢しようと決める。 「大丈夫。いつまでも頼ってられん…下心はない…んなもん捨ててやる…」 「少しはあったんですねぇ」 「頼む黙ってくれ、俺がこれ以上、足以外を滑らせないように」
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