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ローハの酒場では、キノの手伝いは歓迎された。
ゼナイドはすっかり慣れていて、厨房で料理もある程度はこなせるようになっている。
キノは持ち前の愛嬌あってか、慣れなさそうな仕事ではあったもののなんとかやりきっている。
営業を終えて、ローハに太陽病の薬ができたことを報告すると、ローハは喜んだ。「この後リヤのところに持っていくよ」
それから各々片付けを始める。キノは客席を、ローハとゼナイドで厨房や翌日への仕込みを行う。
「私はエクトルを危険な目にあわせてしまった」
ゼナイドがぽつりと呟く。ローハが首を傾げた。シュエーテと出会った経緯をローハへ話す。
「でも実際、例えばエクトルがそのシュエーテに出くわしてたらってよりは全然マシじゃねぇか」
話を聞き終えたローハはそう言った。
今までの旅はひとりでいることが当たり前だった。3人でいたことはわかっていたのに、ましてやエクトルは旅慣れしていないのに。「いや、エクトルをひとりにしなかっただけ立派だろ」
ローハのひとことに、ゼナイドとキノはいい顔をしなかった。
「『護れなかった』って後悔は、エクトルを舐めてんぜ」
エクトルは、喜んで話を聞く中に憧憬の念があった。実際に旅は楽しそうだ、いつかは行ってみたいと言っていた時期があった。世界を見てみたいと。
「俺はよく知らないんだが、あいつ、故郷が閉塞的な環境だったらしい。ディリガに拾われて、初めて外出て。今またココにいるんじゃ、思えばあいつは窮屈だったかもなァ」
だから今回の経験は間違いなくエクトルにとって良いことだ。きっとエクトルへ、希望を与えてくれるような。何かに気付かされるような、良い出来事だったはずだ。
それから赤い太陽も落ちて、店の片付けは3人で終える。キノは宿屋へ、ローハはリヤの家へ薬を届けに。ゼナイドはエクトル達の家へ帰る。
ゼナイドがひとり、星空の下のリルレを歩く。青い太陽を待つ長い星の時はとても静かだった。リルレの街では、この時間はみんな休みの時間に充てているのだろう。
家に着いて、静かにトウナの部屋を覗く。出迎えがなかったので、寝ていると思ったら違った。エクトルは無事帰っているだろうか。少し罪悪感に苛まれながらも、エクトルの部屋を覗く。
エクトルが寝ている寝台に寄り添うようにトウナも寝ていた。寝ているトウナを部屋で寝かせてやるべきか、そのままにするか悩み、トウナの部屋から掛け布団を持ってきてかけてやる。
部屋主がいない部屋でゼナイドが寝るのはおかしいと感じて、ゼナイドは再び外に出る。荷物を適当において、剣と一緒に外へ出た。
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