星の砂

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 リルレに来てから宿や働き口に困らなかったので、町の構造をいまひとつ把握しきれていない。そう思うと、星空の下ではあるものの町を探索することにした。  リルレの町の周りは平野である。そことの隔たりは壁で生み出していた。  星の砂を採りに出た門から一本道が通っている。この一本道には両端に門がある。この2つがリルレの町の出入り口なのだ。ゼナイドが初めて来た時は、星の砂採取とは反対の門をくぐった。  うっすら明かりがついている建物は宿屋に違いない。キノが利用する、トウナの働き先だ。  いくつかの通りがあり、通ったことのない通りを歩いてみる。どの建物も閉まっているので何の店か見当がつかない。  通り散策も飽きて用水路を辿り、少し小高い所へ出た。そこから見える星空はなかなか美しいもので、何となくその場に腰を下ろした。  剣を抱き締めて涼しい風に撫でられる。剣を振るう度、ゼナイドは罪悪感に苛まれる。母からの形見で、あっさりと生き物を死喰虫の餌にすることには抵抗があった。どうしようもない時は仕方が無いと思いつつ、どこかでそれを諦めきれない。 「どうしてこれを私に渡したのだろう」  父にもわからない様子だった。真意を知る方法は恐らくない。  父と母と暮らしていたのは、ゼナイドにとってはほんの僅かだった。ゼナイドが5つの時、母は突然姿を消した。この間に、ゼナイド達は幾度も住む場所を変えていた。  思えば母は何者かに追われていて、それから父と、そして生まれたゼナイドと逃げていたのかもしれない。そして、母がいなくなったのは、その追手に捕まってしまったからだろうか。  母と暮らした最後の村に、父は今でもいる。ゼナイドの旅立ちの場所である。その村で過ごす内に、銀の民の存在を知った。  銀の民について知りたい。母とあまりに容姿に似ている銀の民という存在を、父もあまり良く知らないでいた。 「旅に出たい。銀の民を知るために」  父は反対しなかった。そこで初めて、剣を渡された。渡せと言われていた、母が大切にしていたという剣。 「この剣は、随分勝手が良く、悪い」  旅に出ると決めたゼナイドへ、父は3年をかけて剣の技を叩き込んだ。  死喰虫をすぐ呼び寄せる剣と知ったのは、父が村の近くに出た魔物を斬った時。この剣は、安易に振るうものではないと、父は布切れで覆われていた剣に重い鞘をつけた。 「傭兵してた時だったら、英雄だったな、俺」  英雄の剣にもなれるこの剣を、何故ゼナイドに託すのだろう。母は、自分がいなくなることを知っていたのだろうか。今は平和な時だ、英雄になることはない。これから、大きな戦いが起きるのだろうか。  夢の言葉を思い出す。  ―――紫の空の時、剣を空へ掲げなさい。  もしかしたら、そうしたら、再び母と会えるのだろうか。だとしたら、父も会わせてあげたいものだと、そう思いながら剣を強く抱きしめた。 「おや、先客だ」  背後から声がした。
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