星の砂

2/23

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
「悪いなぁ、エクトル、最後をひとりで任せることになっちまって」  エクトルが、今日の帰りは遅いと確信している理由だった。  店主のローハが、腰を痛めてしまい、いつもはエクトルとローハが最後まで店に残り、ふたりがかりで終えられることができないためである。 「いいよ、それより腰、お大事に」 「ありがとうよ。ま、お前だからこそ、任せられるってモンだイテテテ」  かなり痛そうに腰をさすりながらローハは出ていった。エクトルへの詫びを言いに来ていたらしい。 「ローハさん、随分痛そうだなあ」途中まで一緒に働くリヤが、心配そうに言った。 「時々痛めてるからなあ。ま、歳もあるだろうし」  ローハの酒場は、リルレの町民にとっては、赤い太陽の時の憩いの場として賑わう。  時々眠れぬ旅人が、ふらりと立ち寄る。町を出ない者にとっては旅人の話は興味の的になる。彼らの話をひたすら聞く会が生まれる場だった。  赤い太陽が昇り始めて少しして、いつもの顔ぶれがどよどよと入ってくる。土の季節に入ってからは、旅人が来ていない。町自体にも来ていないのだろうか。 「いつものー」「ローハはどうしたんだ?」「腰、痛めちゃってさぁ」「じゃ今日はエクトルが頑張るのかー」「リヤは?」「リヤんとこ、ガキが生まれたばっかだからな」  リヤとふたり、適当に会話をしながら客の顔を見て、応じた品を作り始める。  リヤは酒を注ぎ終えると運びに行った。それから、他の注文を聞きに客の中を回りに行く。  リヤが帰って来て、追加の注文を書いた紙を見せられる。それから出来上がった料理をリヤが持って行き、戻ってきたかと思えば飲み物を作り再び出ていく。  そんなことを数回していくと、段々と注文は落ち着きはじめ、エクトルとリヤはゆっくりできる。大概は客の話し相手にならざるを得ないのだが。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加