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「悪いなぁ、エクトル、最後をひとりで任せることになっちまって」
エクトルが、今日の帰りは遅いと確信している理由だった。
店主のローハが、腰を痛めてしまい、いつもはエクトルとローハが最後まで店に残り、ふたりがかりで終えられることができないためである。
「いいよ、それより腰、お大事に」
「ありがとうよ。ま、お前だからこそ、任せられるってモンだイテテテ」
かなり痛そうに腰をさすりながらローハは出ていった。エクトルへの詫びを言いに来ていたらしい。
「ローハさん、随分痛そうだなあ」途中まで一緒に働くリヤが、心配そうに言った。
「時々痛めてるからなあ。ま、歳もあるだろうし」
ローハの酒場は、リルレの町民にとっては、赤い太陽の時の憩いの場として賑わう。
時々眠れぬ旅人が、ふらりと立ち寄る。町を出ない者にとっては旅人の話は興味の的になる。彼らの話をひたすら聞く会が生まれる場だった。
赤い太陽が昇り始めて少しして、いつもの顔ぶれがどよどよと入ってくる。土の季節に入ってからは、旅人が来ていない。町自体にも来ていないのだろうか。
「いつものー」「ローハはどうしたんだ?」「腰、痛めちゃってさぁ」「じゃ今日はエクトルが頑張るのかー」「リヤは?」「リヤんとこ、ガキが生まれたばっかだからな」
リヤとふたり、適当に会話をしながら客の顔を見て、応じた品を作り始める。
リヤは酒を注ぎ終えると運びに行った。それから、他の注文を聞きに客の中を回りに行く。
リヤが帰って来て、追加の注文を書いた紙を見せられる。それから出来上がった料理をリヤが持って行き、戻ってきたかと思えば飲み物を作り再び出ていく。
そんなことを数回していくと、段々と注文は落ち着きはじめ、エクトルとリヤはゆっくりできる。大概は客の話し相手にならざるを得ないのだが。
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