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「ごめんなさいね、エクトル。リヤを帰してもらってもいいかしら。この子、熱を出しちゃって」
「あ、ああ。全然いいよ。ちょっと待って。今呼んでくる」
銀髪の旅人、ゼナイドに群がる客へ溶け込むリヤを呼ぶ。「イーリアが来たよ。赤ちゃん熱出したって」
「えっ? また…」
「店はいいよ。どうせ俺ひとりだし」
「ありがとう、悪い」
楽しそうな表情がスッと不安なものへ変わったリヤは客中へ挨拶をして、裏口へ向かった。
「ごめんね、赤が昇って少しして、また熱が出だしてね…」
「悪いな、わざわざ」
「仕方ないのよ…ごめんなさいね、ありがとう、エクトル!」
イーリアからお礼を聞いて、裏口が閉まった音がしたことを確認して、厨房へ戻る。
とっさに火を弱めた上にいた野菜は炒め上がっていた。肉は少し焦げてしまったが、まあ許容範囲だろう。
いくつかの皿に適当に盛り付けて、ゼナイド達へ持っていく。「とりあえずみなさんどーぞ」
それからドリアの焼き具合の頃合いを見て、表面がボコボコしてきたところで、皿にあった木の板へ乗せた。
グツグツと音といい匂いを漂わせながら、即席ドリアをゼナイドの下へ届けた。
「おいエクトル、随分頑張ったな」
「見栄張っちゃって〜ぇ」
「やかましい。少しくらい、いいだろ」
眼の前に出された一品に、明らかに驚いた様子でゼナイドは目を奪われていた。「熱くなってるから、気ィつけな」
一言を聞いて、はっとエクトルへ顔を向ける。それからもう一度ドリアを一瞥して、「ありがとう」と頭を下げた。
「そういやゼナイドちゃん、ディリガを探してるらしいぜ」
「え?」
「そうだったそうだった。コイツな、ディリガんとこ住んでんだよ」
熱々のドリアを後に、ひとまず野菜と肉炒めから手を付けていたゼナイドが、再び驚いた表情をして、エクトルへ目を向けた。
それから程なくして「今日もやってるな〜!」と、新たな客が数人入ってきて、エクトルは慌てて接客へ向かった。
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