星の砂

8/44
前へ
/111ページ
次へ
 青い太陽が昇り始めた頃に目を覚ますと、寝台の上にいることに気づく。きちんとしたところで寝るのは久々だった。  ムクリと起き上がり、近くに剣があることを確認する。それから、床に布団を敷いて寝る女性。彼女を見て思い出て来ることが結び付く。  酒場の店員の家に来た。そしてこの家は、探し人ディリガの家で、彼女はその娘。ディリガは今、研究のために旅へ出ていて、戻って来るまではリルレにいようと決めた。 「うん…おはよう、ゼナイド」 「おはようございます…ええと、ベッドを占領してしまって申し訳ない」 「私、トウナ。いいのいいの…」  少し背中を痛そうにしながら、トウナも起き上がる。それから案内されるようにして、部屋を出て行く。  顔を洗うとトウナがシャワーへ案内した。「あるもの、好きに使っていいよ」と、トウナの趣味か、実はエクトルかはわからないが、揃いの良い風呂用品が綺麗に並んでいた。  やはり久々に浴びるシャワーは心地が良い。ある程度は寝ずに行けるだろうと、リルレに着くまでの数日間はひたすら歩いていた。  途中現れる獣退治などで見えない疲労はあったようで、お陰でぐっすり眠ることができたし、それまでろくに入れなかった風呂で、肌や髪の感覚が気持ち悪かったのがさっぱりだ。 「服、置いておくね」 「ありがとう」  トウナは優しい。改めて、リルレの町民の優しさを再確認する。  なんとなく伸ばしているギシギシとした髪を2回ほどしっかり洗い、ひとまず汚れはあらかた片付いたことに満足して、用意してくれた湯船に浸かる。  ―――銀の幻獣になったから?  昨日エクトルから言われた言葉を思い出す。エクトルの黒髪、緑の瞳という風貌は、11年前に起きた大嵐で、集落が消えた一族によく似ていた。  大陸で魔法が使えないヒュマノや、魔法が使える四種族、ヒュマノと四種族とのハーフ、アイテルマノが繁栄していった結果が今だった。  そんな大陸が発展していく前からいたという、神のお告げを受ける者達。彼らからすべてを奪った大嵐の日、大陸の至る所で、空に銀色の龍達の姿を見たという声が多かった。  故にあの大嵐は、銀の幻獣の仕業とされている。  夢を思い出す。  母がいなくなって、数年経った時。父から剣を渡された。 「お前に渡せと言われていた」  母の形見と思って大事にしよう。大変細く、美しくすらりと刀身がのびる銀色の剣を手に入れた。  その日に眠った時に見た夢。  ゼナイドの中の母の記憶は随分薄れていたが、夢に出てきた女性が母親だとすぐに分かったのは、やはり血縁だろうか。  ―――紫の空の時、剣を空へ掲げなさい。  紫の空。それはきっと、稀に訪れる、青い太陽が沈みきる前に赤い太陽が昇った時。短い星の時が、消えてしまう時。  そんな空の時は、いつ来るかわからないが、母がそう言った。ならばそれをしなければならないのだろう。  あの夢を見て、ゼナイドは旅に出ることにした。父は反対しなかった。何かを知っていたような様子で「行って来るといい」とぼやいた。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加