第一話:異世界に来ました

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第一話:異世界に来ました

 「ここがソーラの言っていた、テラランドか?」  「厳密には、テラランドにある私の縄張り空間ソーラシアです♪」  上は黄色いtシャツの上に赤いパーカー、下は青いジーンズにスニーカー。  異世界に来たにしてはラフな格好をした短い黒髪の日本人の少年。  その名も天照寺昇(てんしょうじ・のぼる)は、大きな金色のピラミッドとスフィンクスっぽいライオンロボがいるエジプトっぽい景色を見回す。  「あのピラミッドが私達の基地で、スフィンクスはロボになります♪」  「マジで? 良かった、異世界で暮らせる場所があるってありがたいぜ」  「私は、フィクションで主人公を虐げるような女神ではありません♪」  「ああ、そういうタチの悪い神様が結構いるらしいし信じてるからな?」  「お任せ下さい、私の勇者様♪ 私はあなたの味方です、永遠に♪」  胸の大きな良い女。  褐色肌に金髪、頭には向日葵を模した冠。  肩と腰に金の鎧が付いた白いドレスを纏ったクレオパトラカットの美少女。  太陽の女神ソーラが、昇の手を握り微笑みかける。  ソーラが昇に好意的なのは、彼女の前世は昇が丁寧に育てた向日葵だから。    「向日葵だった頃から、お慕いしておりました♪」  「その頃からかよ!」  「推しです、ラブです、愛してます♪」  「ヘビー級の愛だぜ、モテなかったから嬉しいけれどさ」  「他の女に渡さないように、術を掛けてました♪」  「俺がモテないのは、お前の所為だったのかよっ!」  「貴方は私の旦那様になる方ですから♪」  「まだ交際してもいないよっ!」  面倒を見てくれる女神と言うのもヤバい存在だと、昇は思い知った。  「まあ、昇様のハートはじっくり攻略して行きます♪」   「勇者って、女神の旦那候補なのか?」  「はい、神も婚活は大事ですから♪」  「神様って、自由だなあ」  「まあまあ、立ち話もなんですから愛の巣もとい基地へ参りましょう♪」  「いや、まだ家は地球にあるからな実家が」  「存じております、お義母様達やご近所様にご挨拶はすませました♪」  「人が普通に学校に行っている時に、外堀埋めるなよ!」  近づいてみると、未来的なメタリックなピラミッド。  「普通の階段かと思ったら、エスカレーターだこれ?」  「地球の技術をパクりましたので♪」  中に入ると壁面や天井に明かりが灯り床が動き出す。  辿り着いたのは、近代的な白い壁と床の部屋。  中心には円卓と椅子が複数ある。  「壁にデカいモニターとかあって、異世界と言うより近未来の地球っぽい」  「昇様の見ていた、番組のヒーロー基地を真似しました♪」  「どうりで見覚えがあるなと、勇者ってもっとソード&ソーサリーな物を予想していたが違ったな」  「他の神の所はそう言う場所もあるようですが、私も日本育ちなのと昇様の好みに合わせました♪ あなたの色に染まっております♪」   「おかしいな、どうしてこんな風に生まれ変わったんだこいつは?」  昇は自分が育てていた向日葵を名乗る女を見て、溜息を吐いた。  「全てはあなたへの愛ゆえにです♪ ささ、左手を♪」  「ああ、わかった」  昇がソーラに左手を差し出せばソーラが彼の手を握る。  その瞬間、昇の左手首に光が生まれ金色で拳大の幅のブレスレットが嵌められた。  「ぐわ~っ! な、なんだこれっ!」  ブレスレットから光のラインが生まれ、昇の全身を駆け巡ると同時に彼の頭の中に様々な映像や文字情報が強制的に記録されて行く。  「ブレスレットから勇者の力と知識をインストールして、昇様の頭と体にダウンロードしてアップデートをしております♪」  「か、改造手術かよっ!」  「機械化とは違い健康には問題ありません、むしろ生体強化で色々と超が付くほどの健康になりますからご安心下さい♪」  いつの間にか昇は、ストレッチャーに寝かされる。  奥のドアが自動で開き、スタッフと書かれた金の板の名札を首から下げた黒い犬 の仮面を被って茶色い貫頭衣を着た 人達が出て来て昇を別室へと運び出す。  運ばれる中、勇者の力らしいエネルギーが全身を巡る。  血以外の何かが血管を流れるような感覚。  同時に液体が体の中に浸透して行く感覚を味わい、気持ち悪くなる昇。  彼が運ばれたのは、タオルの入った駕籠や棚がある脱衣所だった。  「……だ、脱衣所だと?」  スタッフ達は何も答えず機械的に丁寧に昇の服を脱がせると、ドアを開けて緑色の湯が満ちた金色の浴槽に裸の昇を起こした状態で丁寧に入浴させた。  勇者の力の次は、浴槽の緑色の湯が昇の体に吸い込まれて行き彼の心身の疲れを癒して行った。  「……ああ、やっと頭と体がすっきりしたけど浴槽の中が空っぽだよっ!」  『は~い♪ 薬湯を追加しますね~♪ お洗濯もしておきます♪』  天井から何かの装置越しにソーラの声が発せられるのと同時に、今度は白いお湯が浴槽を満たした。  「バイト感覚で来たけれど、何だかこれから大変な事になりそうだな♪」  女神はヤバいけれど、風呂は気持ち良かった。  日本の銭湯とエジプトのピラミッドを混ぜた浴室から出た昇。  脱衣所の籠には、替えの下着と白地に黄色い向日葵柄の浴衣と履物はサンダルがあった。  「エジプトと日本が混ざってるな、俺はエジプトに縁がないはず?」  まさか自分がファラオの子孫か? と思うも否定する。  風呂場では消えていたブレスレットが、昇の左手首に出現する。  同時にブレスレットから、タブレットPCサイズの青い光のスクリーンが浮かび上がりソーラが映った。  「はいは~い♪ 生体強化など諸々、勇者への強化改造お疲れ様でした♪」  「改造されたんだ俺っ! 俺、子孫残せるのか?」  「大丈夫ですよ♪ もうお家安泰確実で、地を満たせます♪」  「良かった~っ♪ って、そうじゃないっ!」  「取り敢えず、作戦室へお戻りくださいな♪」  「脱衣所に、自販機がマッサージチェアがあるんだが?」  「どちらもお代は百円です、お勧めはコーヒー牛乳ですね♪」  「異世界要素どこ行ったんだよ?」  きちんと籠に保管されていた財布やスマホを回収し、買って見る。  しっかり日本産だった、飲んでみたら普通に美味い。  飲み終わった容器は回収ボックスへ入れて、昇は再度作戦室へと戻った。  「それで、まずは何から始めればいいんだ?」  「はい、モニターをご覧下さい♪」  作戦室のモニターに世界のマップが表示され、自分達の居場所や他の神の縄張りなどが表示される。  「ソーラの縄張り、ポツポツ飛び飛びで点在してないか?」  大陸が四方に四つ 真ん中に巨大な島が海を挟んで縦一列に三つ並ぶ世界。  ソーラの縄張りを示すマーカーは、世界の中心に並ぶ三列の島の内のど真ん中の隣にある小さな列島のなかでポツポツと点在していた。  「私もまだまだマイナーゴッドなので、活躍して格を上げてこれから縄張りを広げて行こうと言う立ち位置です」  ソーラが拳を握り悔しがる、神にも格差社会はあるらしい。  「俺が成果を出せば、ソーラの評価も上がると?」  「はい、なのでまずは縄張りの治安維持と現地での戦力のスカウトから始めていただきたいと思います」  「ご当地ヒーローの草の根運動だな」  「千里の道も一歩からですよ♪」  「そう言えば、何でソーラはエジプト風なんだ?」  「偶然、エジプトの神々に魂を拾われて下積みをして独立しました♪」  「聞いてもわけがわからなかったよ!」   結論として、神々にも色々あるのだと言う事しかわからなかった。  「そう言えば、武装とかってあるんだよな?」  「はい、昇様に力を与えて改造したソーラブレスです♪ お揃いですよ♪」  ソーラ自身もブレスレットを出して見せる。  「あれだな、ソーラチェンジって奴だな♪」  昇がヒーローっぽくポーズを取ると、ブレスレットが輝き彼の全身を真紅のヒーロースーツで覆った。  「レッド枠じゃん、良いなこれ♪」  「私、理解ある女神ですから♪」  ソーラも変身してスーツを纏う、彼女はゴールド枠だ。  「あと何人か集めて戦隊作れって事だな♪」  「はい、まずはソーラレンジャーの結成を目指しましょう♪」  勇者の戦隊、変身勇者隊ソーラレンジャーの企画が動き出した。
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