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第十二話:悪鬼の調査
「結局、あの敵は一体何をしに出ていたんだ?」
学園の廊下を歩きながらで考える昇。
前回は何の事件も起こしておらず、いきなり巨大化した敵が出て来た。
昇が思いついた事は、威力偵察だった。
此方は名乗りもしているし、調べる方法は幾らでもある。
敵が自分達について、一切情報を調べていないと言うはずはないのだ。
突如現れた謎の悪の組織であるデストピアン。
昇達はこの敵に関しては、牙鬼と言う種族が構成員で残虐非道な行為も慣れていると言う断片的な事しかわかっていないのが目下の悩みだ。
「どうした友よ、何を悩んでいる?」
「敵についてな、悪の組織と出くわして悩みが出てきた」
「ああ、例の連中か。 まあ、下手な考えはやめるんだな♪」
「そうだな、ありがとう♪」
昇は廊下の反対側から近づいて来てすれ違ったカイルに礼を言う。
確かにカイルの言う通り、一人で思い悩んでいても仕方ない。
昇とカイルの会話は、二人の関係を知らない者達から見ればカイルは昇を馬鹿にしているように聞こえるだろう。
だが、昇はまだ出会ってから一月ほどの付き合いながらもカイルが自分を案じてくれていると感じられた。
「一人で悩んでいても、人助けにはならねえよな動かねえと♪」
昇は図書館で調べ物をしている仲間達と合流すべく、足を速めた。
「カイル様、私達はどうするの?」
「俺達は俺達で好きに動く、そのついでで友の助けになれば良い♪」
「一緒に動けば良いのに、回りくどいのが好きなんですねカイル様は」
「あいつと共に並んで戦う時の見せ場に俺はこだわりたくてな♪」
カイルはいつの間にか自分の隣を歩いている、銀髪ショートボブの美少女に対して自分の考えを呟く。
「マオウカイザーの進捗、五十パーセントで停滞中です」
「ふむ、素材狩りをせねばならんな♪」
「カイル様、生身でも十分だと思うけど?」
「俺も男だ、巨大なスーパーロボットで戦いたい♪」
「その趣味は付いて行けないけど追いかけて行きます、カイル様♪」
カイルも友の力となる為に、自分達の巨大ロボを作るべく動くのであった。
一方、どこかにある赤黒い壁に灰色の床の広間。
異次元にあるデストピアンの本拠地。
奈落の城の玉座の間。
部屋の中央に鎮座する、肘掛けが人の髑髏の金の玉座。
玉座には、長い黒髪の頭頂部に水牛の如き角を生やした白い肌の美女。
身に纏う衣装は黒いゴシックドレス、玉座の主が紅い瞳を光らせる。
「パープルナイトよ、地上は楽しいか♪」
美女は彼女の目の前に跪く紫の騎士へ、甘い声色で尋ねる。
「はい、クイーントピア様。 マイナーゴッド共のたまり場である、オノゴロ方面に我らに立ち向かう妙な集団がおりました♪」
パープルナイトも楽しそうに答える。
「確かに、人間とマイナーゴッドの集まり色取り取りの鎧に巨人か」
虚空にスクリーンを浮かべてソーラレンジャーの映像を映し、クイーントピアはニヤリと口角を上げる。
「この赤い鎧の者は、少年かのう? ああ、この者の魂の暖かさに胸がときめき情欲がそそられる♪ これが運命の恋と言うものか♪」
「あの者をお気に召しましたか、クイーントピア様?」
「うむ、我はもっとこの少年を見てみたい♪ そなたは我が目となり、この少年がいるオノゴロで暴れて見よ♪ いずれ、この赤き少年と我との逢瀬の時が来るまでの下準備じゃ♪」
「クイーントピア様の仰せのままに」
パープルナイトは畏まって答える。
クイーントピアは、映像越しに加えてマスクで素顔を隠しているにも拘らず昇に惹かれた。
彼女が見ているのは、他の魔族や神々と同じく昇の魂の輝き。
昇の魂の輝きは、神々や魔族を惚れさせる性質があった。
だが、彼を好きになった相手の誰もが昇を真っ当に愛するか?
その答えは千差万別だ。
ソーラレンジャーのスーツは、攻撃などの際に装着者の魂の力もプラスされる仕様から魂を知覚できる神や魔族からは正体を隠せなかった。
昇の魂は不幸にも、クイーントピアのお眼鏡にかなってしまたのである。
クイーントピアの昇への慕情は、嗜虐心も交じって歪んでいた。
「では、行くが良いパープルナイトよ♪ 奪えた土地は、そなたらはぐれの牙鬼どものの所領にくれてやる♪」
「かしこまりました、クイーントピア様」
パープルナイトは、己の影を円形に広げ床に沈むように広間から退室する。
「ああ、ソーラレッド♪ そなたを打ち倒した上で我が伴侶にしたい♪」
クイーントピアは一人になった広間で、歪んだ愛の告白をのたまう。
「そなたの魂の光は、闇に染まっても暖かそうじゃ♪」
クイーントピアは一人、恋すろ乙女となり邪悪な笑みを浮かべる。
デストピアンの世界征服の野望の対象に、昇も含まれた瞬間であった。
その昇は、敵の親玉に狙われているなど気付かず基地の作戦室で仲間達と会議をしていた。
「あの敵の幹部と牙鬼達の素性は、これかも知れないパオ」
ナパティが虚空にスクリーンをポップアップさせて、ニュース記事を出す。
「俺がテラランドに来る三年前に、リランカ島で内乱?」
「地図を出します♪ オノゴロ島の隣の、大きな島の南にある小島です♪」
「この島は、人食い鬼の国があった島パオ」
モモが地図を出して、ナパティが続ける。
「人食いを止めた牙鬼と、止めない牙鬼達のぶつかり合いパオ」
「で、行方不明の王女が人食い派か」
「そうパオ、この島の王侯貴族は人間狩りでごちそう三昧パオ」
「人間からしたら地獄だな」
昇はげんなりした、地球にも人食い鬼の伝承はあるが勘弁だった。
国からはぐれた連中が、どこかのデカい組織に入って悪さをする。
「そう言うはぐれ者達を受け入れた、巨悪が厄介ですね」
「世界のあちこちで、小規模な環事件を起こしてるようでござる」
「どのみち退治しないと不味い相手か、情けは掛けてられないな」
仲間達の言葉に昇は気合いを入れる。
思惑はどうあれ、悪事を働き世界征服を狙う奴らは許してはおけない。
デストピアンを好きにさせたら、オノゴロの他のテラランドの人々が文字通り奴らの食い物にされて殺される。
次元を越える手段を敵が持っていたら、地球も危ない。
「あらためて思い知ったが、これがヒーローの戦いか」
自分達が敗れれば、無辜の民の命が危ない。
使命の重さに瞳を燃やす昇、もう臆してはいられなかった。
「昇殿、燃えてるでござるな♪」
「昇さんの魂から、優しさと熱さを感じます♪」
「僕達も魂を燃やして頑張るパオ!」
「ええ、ソーラレンジャーとして団結して行きましょう♪」
五人で拳を突き合わせる。
「では、学業とカレー屋業もこなしつつ調査ですな♪」
「通常業務もおろそかにできませんからね♪」
「堂々と世界規模の事件に立ち向かうには、勇者のランク上げもしないといけないパオね」
「はい、この世界の勇者は格差社会なのです」
テラランドの勇者は、基本的には力を与えた神々の縄張りが管轄だ。
例外は一つが招かれたり、助けを求められて赴き縁が出来た土地。
もう一つは、昇達で言えばナパティやモモの故郷など勇者の仲間と縁がある土地なら文句は言われない。
ソーラレンジャーのランクは、まだまだ下位。
活動範囲を増やすなら、地道な営業活動と互助組織である勇者組合内部での功績を上げる事によるランク上げが必要だった。
「世知辛いのは地球と一緒だよな、じゃあパトロールに行くぜ」
仲間達との話し合いを終えると、全員で立ち上がる。
果報は寝て待てではなく、下手な鉄砲数うちゃ当たる。
じっとしていてもどうにもならないの精神で、昇達は活動するのであった。
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