第二話:異世界の侵食

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第二話:異世界の侵食

 ヒーローの力を手に入れた昇だが、その代償は大きかった。  翌朝、昇は家を出て住宅街を通り学校へと向かう。  日本の平均的な地方都市である、南古都市(なことし)。  ヒーローなどの超人的な存在と一般人の割合が半々で、ご多分に漏れず毎回何処かで事件と戦いが起こる街。  昇が通う南古都農業高等学校の校門に近づいた所、校門に設置されたカメラから彼にレーザーポインターが照射されて警報が鳴り響いた。  「ちょ、何があったの?」  「先生呼んで来て、校門のハザードセンサーが反応してるっ!」  「え、あいつが原因じゃね?」  昇と同じ時間帯に登校して来た生徒達が騒ぎ出し、刺股を持った教師達が現れる。  「て、天照寺君っ! 何であなたから、ハザード反応が出てるんですか?」  年若い眼鏡をかけた、長い緑の髪の担任の女性教師が銃に似たガジェット。 その名も、超人測定ガンカメラを昇へと向けて叫ぶ。  「……実はですね? 俺、ヒーローの力を手に入れてしまいまして」  事情を軽く語った昇は大人しく、生徒指導室へと連れていかれた。  「多重世界間ヒーロー免許に一体型の変身装置に身体強化、校則違反だらけですね。 残念ですが、あなたには本校からどこかの超人向けの学校に転校していただきます」  「……はい、短い間でしたがお世話になりました」  「こちらこそ、転校先での生活と活躍を祈ってます先生から皆には伝えるので回収した荷物を受け取った後に案内に従って校舎から退出して下さいね」  先生の言葉にうなだれる昇。 昇の通うこの学校は、あくまでも一般人の為の公立高校である。  校則上、一般人向けの学校にはヒーローと言えどもイレギュラーな存在は在籍できなかった。  昇は転校扱いとなり、三ヶ月ほど通った学校を去る事となった。  「やべえな、学校から追放されちまったよ転校先探さないと」  学校の校則をすっかり忘れていた昇、少ない荷物を抱えて家路を歩く。  ヒーローの存在が公的に認められている地球だが、社会に認められているがゆえに社会の規制の枠の制限も受けてしまう。 ヒーローや神々と一般人の共存の為、地球ではヒーロー側が一般人に寄り添う形で社会が形成されていた。  自分も制限を受ける身になったんだなと感じながら、家の前に着く。  「待て、家は普通の民家のはずだぞっ!」  家の玄関の門柱の上に、一対のスフィンクスが狛犬のように鎮座。  加えて表札の下に『変身勇者隊ソーラレンジャー日本支部』の看板が追加。  「家がピラミッドになってるし、俺の家が異世界に侵食されたっ!」    二階建ての日本家屋であった昇の実家は、金色の謎金属で出来たピラミッドへと変わり果てていた。  「ただいま~?」  「お帰りなさいませ♪」  「おお、昇お帰り♪」  「お帰りなさい、手続きお疲れ様♪」  「「主様、お帰りなさいませ♪」」  門をくぐりピラミッドの自動ドアが開き中に入る。  玄関は出かけた時と同じ日本家屋の物。  両親だけでなく、ソーラと黒い犬の面を被ったスタッフ達が昇を出迎えた。  「ただいま、父さん達の何か防衛チームっぽい制服から大体わかった」  「ああ、父さん達はヒーロー基地の職員になった」  「法律で家をヒーローの基地にしなくちゃいけないとか、色々変わったけど全部ソーラさんが面倒見てくれたから大丈夫よ♪」  「ご家族やご近所の皆様を、神パワーで丸め込ませていただきました♪」  「うん、もうありがとうとしか言えない」  「いえいえ♪ 私達はもう家族じゃないですか♪」    昇の両親は、グレーの作業着風のジャケットを着ていた。  「そう言えば、俺の転校先ってあるのかな?」  「ご安心を♪ テラランドの魔法学校への転入手続きは済んでます♪」  「そっか、取り敢えず部屋で着替えるよ」  昇は細かい事をツッコむのを諦めた。  外見はピラミッドだが、中身は以前と変わらないようで普通に階段を上る。  二階も、自部の部屋、両親達の部屋、物干しへの階段と変わらずであった。  「中は、今の所変わってないな?」  「はい、元のお家をピラミッドと融合させましたので♪」  「お、おう? 追加された部分もあるのか?」  「ええ、おいおい基地部分やロボへの変形機構などはご説明いたします」  「わかった、何はともあれ面倒事を片付けてくれてありがとう♪」  「前世の恩に比べれば、まだまだです♪」  転移して来たソーラに礼を言い、自室へと入る昇。  六畳間の和室に、パソコンが置いてある机と本棚とクローゼット。  押入れがあり、寝る時は布団を敷くタイプの部屋。  ソーラも一緒に昇の部屋へと入る。  「待って、ソーラは何で俺の部屋に入って来るんだよ?」  「昇様のお部屋と、私の部屋が繋がっておりますので♪」  「そうか、なら仕方ないけどソーラの部屋も遊びに行っていいか?」  「はい、喜んで♪ もう、是非に♪」  「ああ、着替えてからな」  冗談で言ったのだが、ソーラには通じなかった。  部屋の壁にドアを生み出してソーラが自部の部屋へと行くと昇は素早く 学ランからシャツとジーンズへと着替えた。  脱ぎ終えてもう前の学校の制服となった学ランは、後で片付けようとクローゼットに入れる。  部屋の壁にピラミッドに開いた眼の紋章が刻まれた金のドアが出現する。  「ソーラの部屋のドアか、入るぞ?」  紋章の目と昇の目が合うと、金のドアが開き昇を吸い込む。  ソーラの部屋は壁や床が金色でピラミッド風だった。  「いらっしゃいませ、玉座に座りますか♪」  「いや、あっても出さなくて良いから」  「では、シンプルなテーブルと椅子で」  突如出て来た金で出来た豪奢なテーブルと椅子。  自動的に昇は椅子に座らされてソーラと向き合う。  「エジプトっぽいな本当に」  「師匠筋である神々から、エジプト風のあれこれをプレゼントされたので」  「苦労したんだな」  「それなりにですが♪ 明日からはテラランドにある学校へ転校していただきます、学生と言う身分は色々と動きやすいので」  「学歴が止まらなくて良かったよ、どんな学校なんだ?」  「アニメやゲームに出てくる魔法学校ですね、校長が日本から転移した英雄様らしく転移者や転生者も受け入れた魔法英雄学園だそうで」  「主人公が営む学園って感じで良いな、クラスの面々も主人公格な奴らだろう友達になれるよう頑張るぜ♪」  「前向きで素晴らしいです、昇様♪」  「ああ、学生生活もヒーロー活動も頑張るぜ♪」  ジョッキで出されたルートビアを飲み、気合いを入れる昇。  ソーラ曰く  「テラランドにあるオノゴロ列島国と言う日本もどきの島国が、私に割り振られた縄張りです」  「本基地で見たあの島だよな、やっぱ日本風なんんだ」  「はい、日本に縁のある神々や人物が集う所ですので過ごしやすいかと?」  「うん、西洋っぽい場所も気になるけれど近い方が落ち着くぜ」  「転校先のヤツガミ魔法英雄学園と言う学校は、和洋折衷みたいです」  「テラランドって所が、地球よりもカオスだってのはわかった」  「そこは、お互い様だと言われるのでお気を付けください」  「うん、失言には気を付けます」  「では、明日に本基地で制服などをご用意しておきますね♪」  「ありがとう、異世界での学生とヒーロー生活頑張るぜ」  かくして、昇は速攻で転校先も決まり新たな学生生活を送れる事となった。  「それじゃあ、行ってきます♪」    玄関に立ち、今にいる家族へ挨拶をする昇。  白いシャツに上下水色のブレザーとスラックス、ブレザーの左胸には学校の紋章なのか八の字が刻まれた金の盾の刺繡が施されていた。  「……ソーラは女子の制服みたいだけど、もしかして一緒に通うのか?」  「ええ、リア充スクールライフですよ昇様♪」  「とんでもないスクールデイズになりそうだぜ」  ヒロイン付きで転校って、恵まれてるなと感謝して家を出る昇達。  空は青いが、地球なら怪獣扱いされそうなドラゴンが跳んでいた。  周りの景色は、緑が生え山に囲まれた舗装のない土の道。  昔の日本の田舎然としていた。  「本当に日本の田舎みたいだな?」  「ですが、あんな感じに異世界っぽいですよね」  「振り返れば、ピラミッドってのは確かにな」  異世界の大地を踏んだ昇の、新たな学生生活と戦いが始まる。  
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