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第二十五話:秋の刺客
天高く馬肥ゆる秋、それはこの異世界でも同じ。
昇が通うヤツガミ学園でも体育祭の時期だった。
「体育祭か、どんな競技があるのやらだよ」
教室で報せを聞きながら呟く昇。
チート持ち揃いのクラス、どんな技が飛び出すか?
「我が友よ、楽しみか?」
「まあな、転校して来て初めてのイベントだし」
「日本と似た感じだけど、スケールが違うね」
「そうそう、パン食い競争とか食べ物系もある」
カイルやコジュウロウに転生組の生徒達が昇に教えて来る。
「昇様、やはりお弁当ですわ♪」
「皆で美味しいのを作るパオ♪」
「フルーツはお任せ下さい♪」
「拙者も励むでござるよ♪」
「うん、楽しみにしてるよ♪」
仲間の女神達の言葉に昇は微笑む。
「デストピアンの奴らが来ても何とかなるな」
「いや、それはフラグパオ!」
「流れ的に言うと思いましたけど、ウキウキじゃないフラグです!」
「言霊と言う物を考えて発言して下され!」
「ホームタウンだからと気を緩めてはなりませんよ?」
「あ、皆ごめん」
自分の失言に気付く昇、風が吹けば桶屋が儲かる。
言葉に出す事で因果が紡がれて事態を引き寄せる。
運命力とでも言える力が強い物の発言程、フラグになりやすい。
クラスの中が浮かれた空気から、警戒モードに変わる。
「これは当日は、警戒しておかねばな」
「カイルの言う通り、事件は起こるとみて動こう」
カイルの呟きにコジュウロウが続く。
体育祭ではどう競技で勝つかから、どう外部からの敵対勢力の襲撃に対抗するかに話題が変わった。
「これも昇様の運命力のなせる業でしょうか?」
「いや、まだ悪い事が起こるとは限らない!」
ソーラのため息混じりの呟きに昇が反論する。
「大丈夫パオ、僕達が頑張れば最後はめでたしパオ♪」
「うむ、我らの運命力なら乗り越えられるでござる♪」
「戦隊一丸となて、ウキウキで行きましょう♪」
「デストピアンだろうが他の悪党だろうが、倒して見せる!」
「その意気です昇様、流石は私達の主人公♪」
仲間達の言葉に昇が闘志を燃やす。
一方、デストピアン達のアジト。
玉座の間では、クイーントピアが一人微笑んでいた。
「ふふふ♪ ソーラレッド、いや昇君と言おう♪」
己以外誰もいない異形の玉座の間にて、美い女の姿をした邪神が虚空に浮かべた水晶玉からスクリーンを生みだし昇の姿を見て微笑む。
「また一つ、私に相応しい魂になってる♪」
女王が昇に抱くのは歪んだ黒い恋慕の情。
そんな彼女の前に影が生まれ浮き出てくるのは一人の騎士。
バッタを模した緑の鎧を身に纏った騎士は跪いて述べる。
「エメラルドナイト、参上いたしました」
「よく来た、我が緑玉の騎士よ♪ この少年を見よ」
「健康そうで好ましい少年でございます、陛下」
「そう、彼こそ紫と琥珀と紅の騎士を倒した戦士の長。 我が意中の人♪」
「陛下の伴侶にも、我が夫にも相応しい男児でございますね」
「そう、忌々しい女神から彼を奪って分かち合いましょう♪」
「畏まりました、蝗の騎士として奪ってまいりましょう」
エメラルドナイトが述べて、姿を消す。
「昇君、私の蝗を召し上がれ♪」
クイーンは一人になると妖しく微笑み呟いた。
彼女にとってこれは歪んだ遊びだ。
配下の騎士が昇を捕えても良し、騎士が討たれても昇がより自分に相応しい強さを手にれるので良しと存する事のない歪んだ遊び。
相手の気持ちも考慮せず、ただ己の想いのままに駒を動かす歪んだ遊戯。
手駒が尽きるまでは見物しているだけで良い。
歪んだ恋慕による四度目の襲撃が昇を狙うのであった。
そして狙われる側である昇達ソーラレンジャー。
デストピアンとの戦いに備えつつ、体育祭の練習にも励んでいた。
「よし、受け取れカイル!」
「任せるが良い♪」
グラウンドでは昇達が本番に向けてリレー競技の練習をしていた。
コジュウロウからバトンを受け取った昇がアンカーであるカイルに渡す。
カイルが流星の如く駆けまわりゴールを決める。
「うん、やっぱり昇は真ん中で良いなカイルの気合が違う」
「当然だ、お前達が繋いだバトンを俺が決めなくてどうする♪」
「コジュウロウもカイルにとっては友だよ♪」
「恥ずかしいなあ、それ♪」
昇とカイルとコジュウロウが笑い合う。
「何故リレーが男女混合ではないのでしょうか?」
「ソーラ、嫉妬し過ぎパオ!」
「ソーラ殿、殿方の友情も尊いものですぞ?」
「元気な昇さんはウキウキです♪」
ヒロイン筆頭と書かれた鉢巻をしたソーラが昇を見つめる。
敵襲があるかと思いつつも、昇との青春を味わうソーラ達。
自分の欲求に正直なのはデストピアンと変わらないが、彼女達は少なくとも昇の事を考え話し合いつつ共に歩んで行こうと言う気はあった。
「ソーラ達も練習とはいえ、応援ありがとう♪」
昇がソーラ達に近づき礼を言う。
「いえいえ、嬉しいお言葉とお気持ちです♪」
「昇殿のお言葉と感謝の念が染み込みまするぞ~♪」
「昇君の念が気持ち良いパオ~♪」
「昇さんの思いが光のシャワーになって私達に注がれます♪」
昇の言葉から発せられた感謝の気持ちをエネルギーとして吸うソーラ達。
「このエネルギーでソーラカイザーを百万回は稼働できます♪」
「どんな敵が来ようとも切り伏せるでござる!」
ソーラと青玉がテンションを上げる。
「競技も頑張るパオ♪」
「ウキウキで私達のクラスが大勝利です♪」
ナパティとモモも元気良く叫ぶ。
そんな様子をカイルやコジュウロウ達は微笑ましく見ていた。
体育祭前日の土曜、事件は起きた。
「北方の米所、ハバキ市に蝗の魔物の群れですって!」
「大変パオ! ハバキの米農家さんは仕入れ先パオ!」
「もしや、デストピアンでござるか?」
「ウキウキじゃないです!」
「ソーラレンジャー、スクランブルだ!」
基地で各地のニュースをチェックしていた一同に衝撃が走る。
オノゴロ北部の地方都市にピンポイントで発生した蝗害。
自分達に縁がある場所でピンポイントに発生。
敵対組織の嫌がらせでしかないと判断した昇達。
変身し、ソーラカイザーに合体状態で緊急出動となった。
ハバキ市上空へと辿り着いたソーラカイザー。
対するは、彼らを待ち構えていたかのような蝗の魔物達。
「一気に焼き払うぜ、スフィンクスビーム!」
レッドに変身した昇の操作により、ロボがビームを放ち薙ぎ払う。
雲の如き蝗の群れは滅び去った。
「群れは退治できましたな?」
ブルーが呟く。
「上空に魔力の乱れが発生、敵のお替りです!」
「やってやるパオ!」
「敵の嫌がらせに屈する我らではありません、田畑も民も守りましょう!」
「当然だ、出て来た所で退治してやる!」
闘志を燃やすソーラレンジャー。
『お初にお目にかかる、我が名はエメラルドナイト!』
緑色のバッタ人間と言うべき人型の巨大ロボが現れた。
「今度の幹部は緑、僕に喧嘩売ってるパオね!」
「グリーン、怒りを圧縮してぶつけましょう!」
「家のグリーンの方が愛らしいでござる!」
「デストピアンの好きにはさせません!」
「皆、力を貸してくれ!」
名乗りを上げたエメラルドナイトに敵愾心を燃やす一同。
『民の暮らしを人質にするのは失敗か、だが決闘に誘う手間が省けた♪』
「相変わらずふざけやがって、ヘリオライトソード!」
「パオ! レッド君、挑発に乗っては駄目パオ!」
「緊急旋回の回転斬りでござる!」
グリーンが慌て、ブルーがレッドから操縦を奪い回転斬りをしつつ後退。
「レッドさん、ウキウキじゃないです!」
「レッド様、失礼!」
ゴールドがレッドのマスクを解除し、その両頬を左右から叩く。
「ぶっ! うへ、あれ?」
ゴールドに叩かれて、止まるレッド。
「怒りに飲まれてはなりません、田畑も民も無事ですよ」
「お、おお? ああ、何か落ち着いた」
レッドが正気を取り戻す。
『ふふふ、荒ぶる様子も良いねえでは挨拶はすまっせたし置き土産だよ♪』
エメラルドナイトの機体が虚空に魔法陣を描くと、陣の中からきょぢ穴蝗の怪物が出現し入れ替わるように消え去った。
「むむ、逃げおったな!」
「騎士の癖に卑劣です!」
「まずはあのデカいイナゴを倒すパオ!」
「はい、カイザーフィールド展開です♪」
「おっし、気を取り直して行くぜ!」
現れたイナゴの怪物をに対しソーラカイザーは自分達ごと丸い結界を展開し閉じ込め決闘に挑む。
巨大イナゴの体当たりを剣で受け止めるソーラカイザー。
「くそ、恥ずかしい姿を見せちまった!」
「良いのでござる、我らだけなら」
「多分敵はレッド君だけを怒らせる呪いを使ったパオ!」
「ここからはウキウキ必殺タイムですよ♪」
「明日は楽しい体育祭です、心を晴らして参りましょう♪」
「おっし、決めるぜ必殺ファイブカラースラッシュだ♪」
巨大イナゴとの打ち合いから、五色の輝きを刃に灯した必殺剣で敵を両断するソーラカイザー。
新たな幹部、エメラルドナイトに対して兜の緒を締めるのであった。
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