一話 柊くんは意外と世話焼き

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******  あの明るい髪色が同じクラスなんて、嘘だろうと疑ったが、どうやら嘘ではなかったらしい。  それに気が付いたのは、次の日の昼だった。  その男は、昼休みに教室に現れた。 「おはよー! 瑠依(るい)。って、もう昼だけど!」  席に座る男の周りに、早くも数名の人間が集まっていた。第一に声をかけた女は真宮加奈ではない。もっと化粧っけがあって、髪色も明るい女だ。制服も着崩していて、あの男の『彼女』だとしたら、この女の方がしっくりとくるな、と思った。  瑠依、と呼ばれた男を取り囲んだのは、男女が丁度三人ずつだったが、その中に真宮加奈の姿は無かった。真宮がクラスメイトだと言うことが嘘だったのか、とつい辺りを見回してしまう。  すると直ぐに、真っ黒い髪を肩まで切り揃えた、影の薄い女の背中を見付けた。恐らく、あれが真宮だ。廊下側の席で、何を見るでもなく、ただ、静止している。ともすれば、彼らの会話に耳を傾けているのではないかと思う。 (……かわいそーに、遊ばれてるんだな)  そう思うのも無理もない話だ。  まぁ、事実がどうであれ、俺には関係の無い話であるのは違いない。  俺は視線を直ぐ横の窓の向こうへと巡らせた。春にはピンクの花びらを一杯にさせていた桜の木も、すっかりと覆い繁り鬱陶しさすら感じる。ジワジワジワ、と、少し気の早いセミの鳴き声が聞こえた。聞くだけで、体感温度が上がる。実際、そんな検証結果があったとか無かったとか。風鈴の音を聞くと体感温度が下がるらしい。人間って不思議だ。それも、日本人独特な感覚なんだろう。  他人には興味がないが、そういう話は面白い。 「椿、飯にしよーぜ!」  不思議と。  俺のこの取っつきにくい性格をどうこうしなくとも、高校生活で所謂「ぼっち」になることは無かった。  右手に購買でゲットしたのであろう惣菜パンを掲げてやって来たのは、中学生の頃から友人で居てくれている、森本夏樹(なつき)だった。この陽気な青年が、何を俺に魅出して五年間も傍に居てくれるのかわからない。恐らくは、単に面倒見がいいだけだ。 「夏樹って、なんでいつも俺んとこ来るの?」 「えっ? 何、迷惑だった?!」 「悪い。言葉間違えたわ。お前って面倒見がいいよな、って言いたかったんだと思う」  だと思うって、と笑いながら、ほっとしたように俺の前の席へと腰掛ける。確か、サイトウだかサトウだかと言う奴の席だ。いつも昼休みは空席になるので、有り難く使わせて貰っている。 「つーか、面倒見がいいのは椿の方だろ。ぼ、……俺はそういうこと、出来ねぇもん」  夏樹の指差した先には、俺が先程鞄から出した弁当があった。勿論、俺お手製だ。弁当を包む椿柄の大判の和ハンカチは琉と耀がお小遣いを貯めて買ってくれたものだ。 「弁当と面倒見は関係無くない?」 「弟くん達の面倒や、家事、よく頑張ってるよなってこと」 「そうか? フツーだろ?」 「お前の普通のハードルが高けぇんだよなー」  夏樹の苦笑いにはなんとも答えなかった。
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