第二話 消失病

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「ドッペルゲンガー……ですか?」  ドッペルゲンガー。それは、俗にいえばが、現実に現れるという異常現象である。いわばオカルトの類であり、荒唐無稽な話である。  アポロンにとって、ゼウスからの問いにしては唖然とする内容であり、思わず笑いながら首を振った。 「いえ、そんなもんは信じてませんよ。ドッペルゲンガーなんてのは、脳にできた腫瘍が原因で引き起こす錯覚のようなもんです。天井の染みがヒトの顔に見えるとか、そういう他愛もないこじつけの錯覚だと思ってます」 「医療に通じる貴様らしい意見だな」 「まぁ、〝天才〟ですのでね」  アポロンは平然と茶化して言い放った。  ゼウスの厳つい髭面がさらに厳つくなったので、アポロンはそそくさと〝本題〟へと切り替えることにした。 「んっと、それがなにか? まさかそれが〝太陽〟が消えたのと『消失病』になにか関係があるんで?」 「」  ゼウスは強く、肯定した。 「我々にとって……いや、地球に暮らすすべての〝存在〟にとって、〝太陽〟とは無くてはならないものなのだ」 「……まぁ太陽光が生物の身体に好い影響を与えるっつーのは常識ですけど、そういう話ではなくて?」 「そうだ。そういう生物学的話ではない。もっと……そう、超常的な話だ。まずは、これを見よ」  ゼウスはそう言うと、自らの大きい足で床をどんどんと踏んだ。  そこには当然、なにもない。  アポロンは彼の奇異な行動に訝るも、よくその足元を注視した。そして、すぐに答えを得た。 「……ですか?」  ゼウスはその足で、床下を踏みしめた。  自らの巨大な肉体の影が映りこむ、床を。 「そうだ――だ。(わし)はこれと“太陽”の関係をこそ『消失病』の根幹と見定めている」
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