第三話:存在を賭けて

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「嘘、か。本当に……嘘だったら、いいんだけどな」  アポロンは自らの分身に視線を落とし、まるで慰めるように言葉をかけた。 「ありがとよ、ヘリオス。ほんのすこしでも、俺の悩みを共有してくれて」    誰にも言えない、言うわけにはいかない秘密。  再びアポロンはひとり〝苦悩〟を抱える。  一〇〇年後には確実に滅んでいる〝未来〟の光景を脳裏に宿して。 「お前のことは忘れない。お前の〝生〟を否定した分、必ず俺が『太陽神ヘリオス』の存在を一〇〇年先だろうと伝え続けてやる――それが、『太陽神アポロン』がお前に与えてやれる〝存在証明(レゾンデートル)〟だ」  太陽神を殺した『神』は、自らの〝影〟にかたく誓い――『太陽神アポロン』はこれからを生き続ける。いつか必ず来る、終わりの日まで。  しかし、アポロンは知らない。  彼が持つ〝予見〟の力とは、絶対不可避の未来を見るものである。  さきほどヘリオスは、アポロンから渡された〝予見〟の力でアポロンの未来を見た。  そこには、おそらくヘリオス自身によってバラバラに惨殺されたアポロンの光景が見えていた。  もしこれが……絶対不可避の未来だとするなら、今こうして生き残ったアポロンとは〝矛盾〟がある。  アポロンは今、この場で、絶対に死ななければならないのだ。    ヘリオスに殺される前に彼を殺したから回避できたのか。  これは、アポロンも知らないただの〝予見〟の力の〝抜け穴〟なのかもしれない。  しかし、もしそうでないならば……〝未来〟とは――きっと、
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