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『オリュンポス』。
漆黒の闇の下――光輝く超高層ビル群が広がるこの理想都市を、神と人はそう呼ぶ。
暗黒を切り裂く強烈な人工の光を帯びた都市群。その隙間を縫うように、タイヤのない車がヘッドライトを点けて空中を飛び交い、その下では、焼き付かんばかりに輝く街灯に追従するように、人間たちが往来を行き来している。
――もしこの頭上を飛び交う車が事故を起こし、その下を歩く人間たちに落ちてきたら……?
などと考える不信心な者はこのオリュンポスにいない。
これらすべて、全能なる『神』がつくりしモノ。
もしもの事故などあり得ない。
人間たちが一から編み出し作り出したものなど、この世界には一つもないのだ。『神』がつくりしモノに、たかが人間が疑りをかけるなどあってはならないことである。
もし『神』が作りしモノに万が一の不備があるとするなら……それは、他ならぬ『神』の意図が働くためであろう。
到底人間などでは創造などできない、まるで迷路のように様々な都市機能が複雑に入り組み、しかして超精巧なパズルのように精緻に創られたのが、美しき理想都市オリュンポスなのだ。
しかし……ならば、この世界を包む〝暗黒〟はなにか。
なぜ本来であれば太陽が昇る時刻のはずなのに闇に包まれているのか。
なぜこの都市は、闇を拒絶するかのように光輝いてみせるのか。
謎多きここは、陽光無き『オリュンポス』。
闇を恐れる者たちが暮らす世界である。
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