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「……」
男は、その女を見るのをやめた。
たった今湧きたった衝動が嘘のように消え去り、男の目はまるで小動物を狙う猛禽類のように鋭くなった。
ふと、男は、オレンジ色のコートのなかへと左手を忍ばせた。
腰に備えた、彼の〝得物〟。武器へと。
――こんなところでか。
警戒するようにあたりを見渡しつつ、彼がコートの中から取り出したのは……〝棒〟であった。
現代でいう警棒のようなものを左手で握り、手慣れた動作で中指でもって〝スイッチ〟を押す。
すると――、
ガシャンッ!
駆動音とともにその棒からさらに棒が生え、延長する。
そして男はさらに奇妙な行動をとった。
棒を握った左腕を伸ばし、さらに右腕を伸ばしてその棒に触れると、彼の右手と棒の間を繋ぐように、赤い光が生まれる。男はさして動じることもなく冷静に、指に繋がる赤い光を延ばすように右手を引いた。
その姿は様々な差異はあるものの……〝弓〟を引き、構えているような姿であった。
周囲の人々は、その弓をつがえているような恰好の男にさして興味を抱いていないようで、彼の真横をつかつかと何人もの人間たちが通り過ぎていく。
彼らにとって、その男がなにをしようと関係がない。なぜなら彼は『神』であり、彼の行動の意図などは〝従僕〟たる彼らが積極的に関知していいことではないからだ。
――5、4、3、2、
男は心のなかで、カウントダウンを開始する。
それは、たった今見たばかりの〝予見〟が起きるまでのカウントダウンである。
――1、
決して逃れることなどできないし、起きないはずがない――〝敵襲〟。
――0!
男は今――襲われている。
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