第一話:光無き世界

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「……、か」  男は、悲しげにひとりごちる。  さきほど彼が見た〝予見〟。それが的中してしまったのだ。  降り注ぐ車。そして、その破片に突き刺さって死ぬ彼女の姿を。 「ありがとう。君のおかげで、俺は助かった。……そして、すまない。助けられなくて」  どうあがいても、変えられない未来だった。  仮に、男が車を迎撃せず、避けるか潰されるかを選択したところで……結局彼女は、落下し飛び散る破片で死ぬ運命にあった。  予見はできても、未来は変えられない。  男は自らの力の至らなさを詫びつつ、女の死体へ目を伏せた。  プツン――。  女の死体を照らす街灯が、消える。  光の矢の衝撃でなぎ倒され、内部機械が半壊したためだ。  なにも照らさぬ漆黒のなか、女の死体はやはり静かに横たわっている。  だが、その死体に奇妙な現象が起きる。  ……。  まるで闇に溶け込むように、ゆっくりと、女の死体は消え去った。 「……」    男はこの現象をよく知っている。  この『オリュンポス』を脅かす……奇病。いや、怪異というべきか。    暗闇のなかに身を置くと、『神』も『人間』も、。それが、『消失病』である。  消えた者は当然……帰ってこない。死んだのか、それともどこかで生きているのか分からないが、少なくとも今いる世界から消え去ったのは確かであった。
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