手と手でおしゃべり

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 あたしの名前はフローラです。チューリップ小学校の1年1組です。チューリップ小学校はお花の妖精の世界で1番、ほかの学校との交流が盛んな学校です。  月に1回、異世界の学校と交流会があります。先月は怪獣さんたちの学校に行きました。えっ?怖くないのかって……?うーん、実はあたし、よく分からなかったんです。誰かと話すのが、もともと苦手だから、相手が誰でも人見知りしちゃって。それが怪獣さんでも妖精でも、どっちにしてもうまく話せないんです。  その前の月は、水の世界に行きました。水の中で息ができて、おしゃべりができる不思議な世界でした。でも、水の中でも陸の上でも、やっぱりおしゃべりは苦手です。なんか、緊張しちゃって……。  1人で絵をかいてるのが、1番気楽なんです。学校の休み時間は、いつもそうしてます。昨日はチューリップの絵をかきました。  今日は、人間界の学校と交流会です。おめかしして、リボンもちゃんと結びました。今日こそ、うまくおしゃべりできたらいいな……。あ、異世界への扉が開きました。この扉をくぐって別の世界に行くと、その世界の言葉が聞こえて、その世界の言葉が話せるようになるんです。不思議でしょう? 「さあ、今日はスズランろう学校の皆さんと交流をしますよ!」  先生が、元気よく言いました。 「ろう学校、というのは耳の聞こえないお友だちが通っている学校です」  音がない世界ってどんな世界なんだろう?  先生は昨日、新しいノートを持ってくるように言いました。きっと、スズランろう学校のお友だちとはノートに文字を書いて、おしゃべりするんですね。  スズランろう学校にいくと、スズランろう学校の1年2組の先生がにこやかにお迎えしてくれました。ろう学校の先生は、音が聞こえるみたいです。 「1年2組を代表して、学級委員のみおちゃんから、ごあいさつです」  スズランろう学校の先生が、そういうと、髪を2つに結んだかわいい女の子が前に出てきて、ぺこりと頭を下げました。そして、あたしたちに何かが書かれた紙を見せてくれました。  なんて書いてあるんだろう?見たことのない文字です。異世界の文字は、違う文字なのかな?しゃべっている言葉は同じに聞こえるのに。みんなも、文字が読めなくて、ガヤガヤし始めました。  みおちゃん、と呼ばれた女の子も困っています。先生も、文字が読めなくて困っています。 「大変、文字が違うなんて。しゃべっている言葉が同じだから気が付かなかったわ」  スズランろう学校の先生も困っています。 「まあ、どうしましょう。せっかくの交流会なのに」  1年1組のみんなは「こんにちは」「よろしく」と書いたノートを、人間のみんなに見せています。でも、人間のみんなが使っている文字とは違うから、人間のみんなも「読めないね」というように、顔を見合わせています。身振り手振りで、何かを伝えあっています。  どうしたらいいんだろう?どうしたら仲良くなれるかな?握手したら仲良くなれるかな?どうやって握手しようって伝えようかな?  目の前には、クレヨンとまっさらなノートがありました。そうだ、絵をかきましょう。あたしは絵が大好きです。だから、一生懸命伝えたい思いを形にしたら、きっと伝わるんじゃないかしら。  みおちゃんとあたしが握手している絵をかきました。それを、みおちゃんに見せました。みおちゃんはまじまじと絵を見ています。困り顔だったみおちゃんは、ぱあっと笑顔になって、あたしに右手を差し出してくれました。あたしは、みおちゃんの右手を握って握手しました。  伝わった。うれしいです。みおちゃんは握手した後、みおちゃんのノートに何かをかき始めました。あたしの絵とクレヨンを持ったあたしが大きなハートで囲まれている絵をかいてくれました。 「あなたの、絵が、好きよ」  みおちゃんの絵からは素敵なメッセージが伝わってきました。みおちゃんはもう1枚絵をかいてくれました。  ハートマークがたくさんの絵。シュークリーム、ボールで遊んでいるみおちゃん、みおちゃんの家族、そしてスズランのお花がかかれていました。 「あたしの好きなものです。あなたは?」  みおちゃんが首をかしげて、あたしに質問します。  あたしの好きなもの、お絵描きをすること、パパとママ、かわいいお洋服。一生懸命かいて、みおちゃんに見せました。みおちゃんが、にこにこしながら、うなずいてくれます。  今度はみおちゃんの番です。みおちゃんとあたしが、笑いあってハグしている絵をかいてくれました。きっと、こんなメッセージがこめられているのでしょう。 「お友だちに、なりましょう」  うれしい。こんな素敵なお友だちができるなんて。あたしは、みおちゃんにハグしました。みおちゃんは、あたしの初めてのお友だちです。  この様子を見ていた男の子が、あたしに言いました。 「なあなあ、オレたち、スズランろう学校のみんなと遊びたいんだ。鬼ごっこしようって、オレのかわりに伝えてよ。オレ、絵が苦手なんだ」  あたしは、みおちゃんにスズランろう学校のみんなとチューリップ小学校のみんなが鬼ごっこをしている絵をかいて見せました。みおちゃんはうなずくと、スズランろう学校のみんなに伝えてくれました。  みおちゃんは、グー、チョキ、パーの絵をかいて見せてくれました。 「じゃんけんで、鬼を決めよう」  みおちゃんの絵のとおりに、じゃんけんで鬼を決めると、みんなは校庭に走り出しました。楽しい鬼ごっこの始まりです。  しばらく鬼ごっこをしたあとは、みおちゃんがあたしにまた絵を見せてくれました。みんなでドッジボールをしている絵です。そういえば、みおちゃんはボールが好きなのでした。 「うん、いいよ」  あたしは、勇気を出して、みんなに言いました。 「ねえねえ、みおちゃんがドッジボールしたいって」  1年1組のみんなは口をそろえて「いいよ」と言ってくれました。だから、ドッジボールでもたくさん遊びました。  楽しい1日はあっという間。妖精の世界への帰りの扉が開く時間です。あたしは、もう1枚絵をかきました。夏になって、扉の中からあたしが出てきて、みおちゃんと遊んでいる絵です。大切なメッセージをこめて。 「また夏休みに遊びに来るから、一緒に遊ぼうね」
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