3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
講師(こうじ)
天徳内裏歌合において講師も左右に分かれた。
講師の役割は、歌を朗吟し披露すること。
歌合わせは、歌を作った本人ではなく、講師が読み上げることとなっている。
左の講師は源延光、右が源博雅となった。
源延光は自らも歌人で才があり、人付き合いにも如才なく、出世は兄の安光よりも早かった。
延光が才気煥発な人であるならば、源博雅は雅楽家だった。
篳篥や、和琴など雅楽を愛し、朱雀門に現れる鬼から名笛「葉二」を譲り受けた話し、琵琶の名手の蝉丸の家で三年間立ち聞きに行き、琵琶の秘曲を覚えたという逸話は、市中にまで語り継がれている。
歌や舞は苦手な博雅だったが、穏やかな人柄で、人気があったこと、頼まれたら断れないお人好しの性分だったこともあり、講師を受ける事になったのだった。
天徳内裏歌合わせ、第三番。
題目は「鶯」
左方講師、源延光が朗々と詠み上げた。
「わがやどの梅がえになくうぐひすは 風のたよりにかおやとめこし」
次は、右方講師、源博雅の番だ。
博雅は息を吸うと、詠み上げた。
「さほひめのいとそれかくる青柳をー」
会場がザワザワした。
皆が少しだけ慌てている。
「博雅殿、それは四番だ」
左方から、注意が飛んだ。
博雅が詠んだのは、第四番の題目「柳」で、平兼盛の歌だった。
歌合わせは、季節ごとに題目が進んでいく。
右方の歌が披露された後、人々が固唾を飲んで見守る中で起きた。
堪えていた人々からも、笑いが漏れる。
笑い声を耳にして、顔面蒼白となった博雅だったが、慌てて鶯の歌を読み直す。
動揺した博雅の声は小さく、震えてかすれ、何度か噛んでいる。
そのせいかどうか、第三番の鶯勝負は左方が勝利し、右方、兼盛の歌が負けてしまったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!