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君が差し伸べてくれた手 ②
俺は同性が好きだ。
しかも惹かれるのはいつもノンケ。
いつも俺が先に好きになり、そしていつも振られるのも俺。
だからもう同じ間違いを起こさないように、ゲイバーに行くことにした。
「お兄さん、最近よく見るね。隣り、いい?」
20代前半だろうか若い男に声をかけられられた。
しかも俺のタイプそのものだ。
俺は32歳だ。
そんな20代前半の子に「隣りいい?」なんて声を掛けられたから、無意識のうちに頷いてしまった。
「よかった。振られたらどうしようかって思ってたんだ」
眩しいほどの笑顔を俺に向けてくれながら、彼は俺の隣に座る。
「お兄さん、彼氏いる?」
「え?」
持っていたロックグラスを、危うく落としそうになった。
想像もしていなかった質問とタイミングに、驚きを隠せない。
「って、お兄さん可愛いから、いるよ…」
「いないよ!」
彼がいい終わらないうちに、俺は答えていた。
「いない。最近フラれたばかり。子どもが欲しいから別れて欲しいってさ。同性と付き合った時から、そんなことわかってるのに、今更って感じだけど、まぁ、ノンケを好きになってしまった俺がわるいんだけどね…」
訊かれてもいないのに、すらすら言葉が出てきた。
「え!?彼氏いないの?」
俺が長々と話たことより、彼にとっては俺に彼氏がいないことの方が重要だったようだ。
「じゃあさ、俺と付き合ってよ」
「…へ?」
驚きすぎて、変な声が出た。
「俺、お兄さんに一目惚れしたんだ。付き合ってよ」
彼はグイッと近づいてくる。
彼を間近で見ると、本当に整った顔立ちでいい香りもする。
俺といえば、のっぺりした顔に目の下にそばかすまである。
「一目惚れ?俺に?何かの間違いじゃない?」
彼の言葉が信じられない。
「ほんとにほんと。俺今まで告白されたことあってもしたことないし、まして一目惚れなんて生まれて初めて」
そんな出来すぎた話、詐欺でしかない。
「俺、お金ないよ」
「え?それ、俺の一目惚れと関係してる?」
「してる。だってこれ、新手の詐欺だろ?俺、お金ないから、なにも騙し取れないよ」
もし本当の詐欺なら、これで手を引いてもらえるし、冷やかしなら立ち去ってくれるだろう。
なのに彼は、
「お金のことなら大丈夫。俺、使いきれないほど持ってるから。なんならネットで残高見る?」
スマホを取り出し、手渡してきた。
「いい!そんなことしなくていいって!」
慌てて、俺は彼にスマホを返す。
「冗談とかじゃなく、本当に俺と付き合いたいと思ったの?」
「思った!」
「本当に俺でいいの?」
「お兄さんがいい」
「条件あるけど、いい?」
こんな俺が条件なんて出せる立場じゃないことぐらいわかってる。
でも深入りして、傷付くのは嫌だった。
「付き合うのは2ヶ月間。お互い名前は訊かない。セフレになったとしてもキスはしない。それでいい?」
「お兄さんのこと、セフレだなんて絶対思わないし、しないけど、お兄さんがそれがいいっていうなら、俺ははそれでいい!」
彼は考える素振りも見せず、即答した。
「じゃあ…お願いします…」
俺が手を差し出すと。
「やったー!」
と彼はガッツポーズをして、差し出した俺の手をしっかり握った。
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