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君が差し伸べてくれた手 ③
彼から「なんて呼んだらいい?」と訊かれたから、
「呼びやすい何かでいいよ」
というと、
「じゃあ俺のことは『お前』っ呼んで」
って言われて呼んでみたけど、彼には全然似合わない気がして、結局『年下くん』って呼ぶことにした。
俺たちが付き合い始めて、5日目。
年下くんとデートしたのは今日で5回目。
要するに毎日デート。
年下くんは一日中メッセージをくれるけど、俺の仕事は忙しくてできない。
しかもメールが苦手な俺は、仕事が終わったら年下くんに電話をかける。
するとすぐに電話に出てくれて、
「少しでいいから会いたい」
甘えた声で言われるから、ついつい俺もその言葉に甘えてしまう。
でも俺たちの進展具合は、まだ人があまりいない場所で手を繋ぐしか進んでいない。
年下くんは「みんなの前で繋ぎたい」
って言ったけど、
「俺は会社の人にゲイだと誰にも言っていないから、繋げない」
と言うと、年下くんは悲しそうな顔をしながらも「わかった」
と言ってくれた。
そして今日は金曜日。
初めて仕事が休みの前の日だ。
もしかして、もしかすると、そういうことがあるかもしれないと、ジェルやゴムをカバンの奥底に仕舞い込み、平静を装って年下くんに電話する。
今日もやっぱりすぐに出てくれる。
「今、仕事終わったんだけけど、どっか飲みに…」
『行かない?』って聞く前に、
「あの、今日餃子作ったんで、俺んちで一緒に食べない?あ、でも急だよね、ダメだよね」
年下くんは早口で話す。
その声は、電話越しでもわかるくらいテンパっていて、緊張している。
可愛い…
思わずフフフと笑ってしまうと、電話越しの年下くんは、
「今の笑顔、近くで見たかったな」
なんて呟くから、もう顔から火が出そうだった。
そんなこと言われたら、今すぐ会いたくなる。
「じゃあお言葉に甘えて、家に行かせてもらおうかな?」
余裕ぶったけど本当はそんな余裕なかった。
「本当に⁉︎いつもの待ち合わせ場所にいるから、気をつけてきて」
彼の弾んだ声がした。
初めてあった時、年下くんは「お金は使いきれないほど持っている」と言っていた通り、年下くんの部屋は高層マンションの上階層にあった。
そこはまるでモデルルームみたいで、俺の部屋んておもちゃの家みたいに感じる。
「散らかってるけど…」
そういいながらダイニングに通してくれたけど、誇りひとつ落ちていない。
「これで散らかってたら、俺の家はゴミ屋敷だよ」
冗談ぽく言うと、
「実は今日、家に来てくれるかも知れないって思って、一生懸命掃除したんだ」
年下くんは頭を掻きながら、照れた。
一生懸命掃除をする年下くんの姿を想像すると、可愛すぎて胸がキュンとして、二人して赤面してしまった。
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