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君が差し伸べてくれた手 ⑤
「ねぇ、一緒に住まない?」
朝食の片付けをしている時、年下くんが真剣な眼差しで俺を見つめる。
俺の手が止まった。
「答えはすぐにじゃなくていいんだ。ただ、少し考えて欲しいと思って…」
俺はすぐにでも「もちろん!」っていいたいし、ずっと一緒にいたいとも思う。
でも年下くんくんはまだ若い。
これからたくさんの出会いがあって、きっと俺なんかよりいい人に出会うはずだ。
その時が訪れた時、俺はすぐに別れられるようにしていなければならない。
深入りしない、好きになり過ぎない…
でも俺の中で、年下くんの存在は大きくなり過ぎた。
「ちょっと考えさせて…」
そういい、その日は早く自宅に帰った。
俺は年下くんと距離を置こうと決めた。
次の日、年下くんに「仕事が忙しくなってきたから、しばらく会うのは控えよう」というと、年下くんは「わかりました」とあっさり承諾した。
意外だった。
年下くんの返事も、俺の気持ちも。
特に俺の気持ちと傲慢さに驚いた。
俺は「会うを控えよう」といった時、もっと年下くんが「そんなの嫌だ」というかと、心のどこかで思っていたのだ。
なんて傲りだ。
そんなことを思うなんて、俺はいつから、そんなにも傲慢になっていたんだろう。
自分が恥ずかしかった。
その頃から本当に仕事が忙しくなった。
会社を出るのは、いつも22時頃。
そんな時でも年下くんはいないのに、いつも待ち合わせしていた場所に行ってしまう。
会いたい…
でも会えない…
会ってしまったら、今度こそ年下くんと別れられない…
待ち合わせの場所から踵を返し、駅に向かおとした時、
「あの!」
後ろから聞きたかった声がした。
振り返りたかった。
振り返って年下くんの胸の中に飛び込みたかった。
でも…
俺はまた歩き出す。
「あの、俺があんなこと言ったからですか?」
俺は前を向いたまま聞く。
「もしそうなら、ごめんなさい。もうあんなこと言わないから…。だからこれからも会いたい…」
最後の方は心が締め付けられるほど、悲しそうな声だった。
今は22時半。
いつも年下くんと待ち合わせしていたのは18時か19時ぐらいだから、一体いつから年下くんはここで俺を待っていてくれたんだろう…
胸が熱くなって、そして苦しくもなった。
「俺だって…年下くんに会いたいよ…」
年下くんの顔は見れなくて、後ろを向いたまま言った。
後ろから年下くんが駆けてくる音がする。
「本当?」
年下くんに抱きしめられた。
「もうあんなこと言わないから、一緒にいて…」
後ろから聞こえる年下くんの声が震えている。
「今日…年下くんの部屋に、行っていい?」
もう後戻りできなくてもいい。
その時がきたら、みっともなく泣いて、嫌われたらいいんだ。
「もちろん」
年下くんは正面から俺を抱きしめ、
「キスして…いい?」
僕の目を射抜きそうな眼差しで見つめながら、聞いた。
「ここは外だから…。初めては年下くんの部屋がいい…」
「!」
年下くんは一瞬息を呑んだが、
「絶対ですよ」
と俺の手を取った。
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