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君が差し伸べてくれた手 ⑥
駅までの道、人はたくさんいたが、俺は年下くんの手を離さなかった。
年下くんも俺の手を離すまいと、しっかり握っていてくれる。
幸せだ。
この幸せがいつまでも続きますように…
「あれ?雅也じゃない?」
年下くんと同じ年頃の綺麗な女の子が、年下くんに話しかけてきた。
「やっぱり雅也じゃん。最近集まりにも来てないし、恋人でもでいたんじゃない?って話してたんだよ」
女の子は俺と年下くんが手を繋いでいるのを見た。
「その人は?」
女の子が聞くと、
「俺の大切な恋人」
と年下くんは答えた。
「え⁉︎それ本気で言ってるの?」
「本気」
「え?だって雅也『ゲイだけは絶対ムリ』って言ってたじゃん。もう冗談きついよ」
女の子が笑った。
……
頭の中が真っ白になって、女の子が言っていた言葉を理解する前に涙がこぼれそうになった。
奥歯を噛み締め、涙を堪え、年下くんの手を振り払い、走り出す。
背後から年下くんの「待って!」という声が聞こえた。
それを振り払うように、俺は走った。
走って、走って、走って…
いい歳のおじさんが、泣きながら走っている。
通行人が訝しげに俺を見る。
年下くんは、ゲイじゃなかったんだ。
それよりも『ゲイだけは絶対ムリ』って言ってたんだ。
ああ、俺はなんてバカなんだ。
年下くんがゲイバーにいたから、年下くんはゲイでだと思っていた。
年下くんは物好きだから、俺みたいなやつにも優しくしてくれていたと思っていた。
でもそれは全部俺の勘違いで、年下くんはゲイ嫌いで、俺のことも嫌いだったんだ。
自分のバカさ加減を恥じた。
もう誰も好きになんてなるものか!
そんなことを考えていると、ドンッと通行人の一人とぶつかった。
「すみません」
ぶつかった人の顔を見ずに謝ると、
「凪?」
男の声がした。
頭を上げると、そこには元彼がいて、その元彼の隣には可愛い男の子がいた。
「え?凪、泣いてる?」
元彼は俺の顔を覗き込んだ。
「泣いてない…」
そう言ったが、もう遅かった。
「その人誰?」
元彼の隣にいた男の子が言う。
「元恋人」
「へ〜僕の前の人?」
「まあ…そうなるな」
二人でそんな話を始める。
男の子の左手の薬指に指輪をがひかる。
指輪…
俺がどんなに欲しがっても買ってくれなかった指輪を、この子にはもうあげたんだ…
元彼のことは、もうなんとも思っていないと思っていたけど、指輪を見てしまって、自分が惨めになってきた。
「もしかして、凪、また振られた?」
元彼の言葉が胸を抉る。
「…」
俺が黙っていると、
「図星かよ。もうそんなに落ち込むなって、今日は俺たちが奢ってやるかから、元気出せよ」
元彼が俺の肩を抱き寄せようとする。
嫌だ!
そう思った時、
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