君が差し伸べてくれた手 ⑦

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君が差し伸べてくれた手 ⑦

「触るな!」 息を切らせた年下くんが、俺の抱き寄せていた。 「俺の恋人を気安くさわんじゃねーよ」 年下くんを見上げると、額だけではなく首にも汗が流れ、息は荒い。 「え?凪、この若くてイケメンがお前の恋人?お前、絶対騙されてるって。そんぐらい気付けよ」 元彼は鼻で笑う。 年下くんの手がきつく握られる。 元彼は気付いてなさそうだが、今にも年下くんは殴りかかりそう。 「知ってるよ!でも一緒にいたかったんだ。一緒にいたかったけど、もうだめなんだ」 そう言った後、年下くんの方を見て、 「何も気付けてなくて、ごめんね」 多分涙でぐちゃぐちゃだったと思ったけど、最後に微笑んで見せたかった。 すると年下くんは苦しいぐらいに、俺を強く抱きしめ、元彼を睨みつける。 「あなたって賢い人なんですね」 「どういう意味だ」 「あなたは自分の力では、彼を幸せにできないと思ったから、あんな酷い別れ方をしたんでしょ?」 睨みつけながら続けた。 「なんだと!」 元彼が年下くんに殴りかかろうとしたが、その拳を年下くんに止められる。 「あなたには、その頭の悪そうな子がお似合い。どうぞお幸せに」 それだけ言って俺の手を引っ張る。 「年下くん、痛いよ」 「…」 年下くんは無言のままタクシーを拾い、自宅マンションの住所を告げる。 タクシー内でもマンションのエレベーターの中でも、年下くんはずっと無言だった。 部屋につき、玄関のドアを閉めると、 「ごめんなさい…」 涙をいっぱいに溜めながら、俺に謝る。 「ごめんなさい、ごめんなさい」 何度も謝るから、 「向こうで落ち着いて話そ」 パニックになっていた俺の方が、落ち着きを取り戻していった。 年下くんはソファーで頭を項垂れて座っている。 俺は二人分のコーヒーを淹れて、年下くんに手渡す。 「俺、昔は何も知らなくて、偏見の塊だったんだ」 ぽつりぽつりと話し始めた。 「友達と遊んでた時、アイツが貴方に別れを切り出したところをみてしまって…」 「…」 「涙を我慢しながら耐えている貴方の姿を見た瞬間、あまりに綺麗な泣き顔だったから、『俺はこの人を守らなくちゃいけない。笑顔を取り戻さないといけない』って思ったんだ。それから貴方が通うバーを見つけて、貴方に声をかける機会をずっと待ってたんだ」 「でも君みたいな人が、そんな理由だけで俺のこと、好きにならないよね」 「初めから好きだった。でも貴方と過ごすうち、貴方の優しい心に触れ、貴方のいろんな表情に出逢って、もっともっと好きになった」 「…」 「貴方を、貴方だけを愛してる」 年下くんは俺を抱きしめる。 年下くんの体温と言葉が、体の中に流れてくる。 「俺も…好き…」 やっと自分の気持ちを言葉にできた。 胸に支えていたモヤモヤが溶けていく。 「ほん…とに…?」 年下くんは不安そうに僕の顔を覗き込む。 「本当だよ」 そういうのが精一杯だった。 みるみる年下くんの表情が明るくなり、綺麗な顔を嬉しそうにくしゃりと歪め、溜まっていた涙が一粒溢れた。 「キスして…いい?」 年下くんが俺の頬に手を当てたから、俺はその手に頬を擦り寄せ、瞳を閉じた。 唇に柔らかなものが触れる。 口内に舌が入ってきて、舌と舌が絡み合う。 初めてのキス。 くちゅりくちゅりと音がして、唇を離すとお互いの唾液が糸を引いた。 「名前、聞いてもいい?」 「凪…。年下くんは?」 「雅也」 「凪、愛してるよ」 「雅也、愛してる」 もう一度、深いキスをしてお互いの身体に触れた。 溶けて、混ざって、ひとつになって… 激しさと優しさの中、俺は雅也に連れ去られ、溺れていった。
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