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俺っちが気づいたのは、引っ越してから三日目の夜っす。まだ季節は夏だったので、暑くて風呂に入ってたんす。当然頭も汗をかくので、シャワーでお湯を流しながら頭を洗ってたんす。
で、頭を洗い終わったら、床に水が溜まったんす。俺は最初はただ排水溝が詰まった、そう思ったんす。しまった、部屋案内の時水周りのチェックを忘れてた。どうりで安いわけだ。そう思ったす。ただただ、下水管とかの問題が多くて、そんで都内の割に安いって思ったんす。
したら・・・・・・髪が有るんすよ。
もちろん髪を洗ったので抜けた毛も有るんだとは思います。でも、明らかに違ったのは毛の長さっす。兎に角長かったす。俺は今も昔も髪は短いっすから、有り得なかったんすよ。
なんで、女の髪が・・・・・・。
怖いと言うより気持ち悪さが増したっす。だって、人毛っすよ。なんでか知らないっすけど、髪の毛って嫌っすよね?ほら、食べ物とか特に。それより水が詰まったままじゃ困るんで、俺は意を決してその髪を掴んだんす誰のか知りませんけど、そんでゴミ箱へ捨てました。
掴んだって言っても素手じゃ無いっすよ。自分のでも気持ち悪いっすからね、大方はゴミ拾いに使うトングで挟むんすけど。残りは使い終わった古い歯ブラシでガシガシやって取りましたね。
「哲也くん・・・・・・トングはパンを挟んだりする奴だから、ゴミなら火ばさみじゃ無い?」
「ああ、そうっす。そうみたいす、すいません先輩」
とにかくその火バサミってのを使って、まあその日はアレが初ってのも有ったんで、あんま気にせんでシャワーから出ると髪を乾かしてそのまま寝ました。こん時は序の序で、なんも起きなかったんす。
「ちょっと待って江藤くん、序の序って・・・・・・まるで始まりみたいに言うけど、それだけで終わらないってこと」
「はい、それだけじゃ終わらないっす。あんなの序章に過ぎないっすから。それより匿名のはずじゃ、名前言わんといて下さいよ」
「あっ、ごめんごめん。まあまあ苗字だけなら特定されないからさ、それより続きは」
そんで朝一念の為例の不動産に掛けたんす。もう借り始めたし、引っ越そうとかはなかったすけど、下水管の問題とも思ったんで、修理を頼んだんす。入って初日っすから、こっちが壊したわけでもないんで、もちろん不動産持ちっす。担当も普通に了解してくれて、そんで修理することになったんす。
そしたら・・・・・・。
「えっ、なんか急展開とか?」
「いや、そうじゃないっすよ。まあ聞いてください」
「了解です」
下水管の修理業者が来て、下水管を見せてくれたんすけど、正直めっちゃ中は綺麗だったんす。特に詰まる原因も無くて、何度もテストして貰って、そん時は全くって言っていいほど一度も詰まることが無かったんす。詰まる理由が分からないとまで言われましたよ。水周りは全然問題無いんで、結局30分くらいで終わったんすけど。
それは言いんすけど、業者が帰り際妙なことを言うんですよ。
「妙なことって、何を言われたの?」
「同棲ですか、羨ましいですねって」
はっ、て俺は思ったす。何言ってんだコイツってね。いやいや俺一人暮らしだし。勘違いしてるし、俺上京したばっかで彼女居ないっすから、スグに否定しましたよ。そしたらなんか急に顔付きが変わりやがって、書類と部屋を見ながら、『すいません、私の勘違いみたいです。それでは』って声が裏返った感じで、そんで慌てるように車を飛ばして行っちまったんす。その当時は意味分かんなかったんすけど、彼は見ちゃったんすね。
「見たんだ・・・・・・何かを」
「そうっす、何かを見たんす」
「居るはずのない、てっちゃんの彼女を」
「そう・・・・・・っすね。いや、彼女じゃないっす。けど、女性だったんでしょうね」
「でも、羨ましいって言ってたならさ、綺麗だったんでしょう」
「いや、綺麗でも嫌っすよ。羨ましいじゃなくて、怨めしいだろうし」
「なんか上手いこと言った」
「いや・・・・・・冗談を言おうとしたわけじゃ・・・・・・それに」
「それに?」
「まだまだ序の口ですから」
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