第1章

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第1章

 市内でいちばん大きな病院の待合室は、夏休みだと言うのに、とても()いていた。  診察室から出てきたばかりの友人の姿を見つけて、僕は声をかけた。 「大丈夫だった? しっかり治せよな」  クラス一番の美男子で悪友の武田(たけだ)周郎(しゅうろう)の付き添いで、僕はこの病院を訪れていた。 「へいへい」  僕がケガの程度を心配すると、武田は跳ねた髪を手で触りながら、安堵したような表情を浮かべた。  だけどすぐに、処置を受けた自分の足に目をやって、ため息をついて嘆いていた。 「夏休み初日に、男二人でむさ苦しいバカ騒ぎの計画を立てようとしたまさにその時だった。ストリートの階段から落ちて、足をひねって全治一週間を食らうとは。俺もつくづくついてないよ。 これもぜんぶ、お前が足立(あだち)って名前なのが悪い」 「お前は今、全国の足立さんを敵に回しているぞ」  むしろ足が立つから、縁起のいい願掛けみたいで、ねんざが早く治りそうだが。  僕と武田の夏休みのバカ騒ぎの計画は、そんな事情で一日目にして出鼻をくじかれた。 「まぁ、今日の俺、足首以外は全身鎧に包まれてたし、おかげさまで軽傷」 「とりあえず冗談言う余裕はある、と」  今度は僕がため息をついた。  七月三十一日。高校生活二年目の夏休みが始まり、僕と武田は早速夏休みの計画を立てていた。 と言っても、計画は何も決まらないまま、アーケードをぶらついて、ゲーセンに入って、おもちゃ屋のカードゲームの大会で、武田が小学生を泣かせて、ようするに、僕たちは貴重な時間を浪費しただけだった。  受験を見据えると、今年は最後の夏休みになるだろう。  まぁ、思い出作りというほどでもないけど、そのうちどこか遊びに行けたら良いよな、という他愛ない話をしていた時のアクシデントだった。  階段から落ちて足をひねった武田は、処置を受けた患部に目をやって言う。 「うん。じっさい湿布だけもらうような軽いねんざだったし」  不幸中の幸いだった。  僕と武田とは、小学校からの腐れ縁だった。  高校でも同じクラスになって、いつもつるんでいる悪友のようなものだった。  そして、武田は、根っからのゲーマーだった。彼の素行は正直良いとは言えない。授業中に、携帯でRPGやデジタルカードゲーム等の片手間で遊べるアプリを起動して、二、三回没収を食らっているような奴だった。 『どうせ現文なんだから、好きにさせろよ。よりにもよって昇格戦の真っ最中に来ることもねぇだろ』とゲーマーでもない僕に国語教師への恨みつらみを語った。  そんな愚痴を聞いて、まるで自業自得のお手本だな、と呆れた覚えがある。
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