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「危なっ!」
僕はひやりとした。
急に飛び込んできた女の子の背中を危うく蹴ってしまうところだった。
「君、大丈夫?」
近くに落ちていたプリントを拾い上げ、女の子に渡す。
「――ほえ?」
気の抜けた声とともに、女の子が顔を上げると、ショートヘアーの切り揃えた部分がふわりと動いた。
何だか、見覚えがある顔だった。
小柄な体躯の持ち主はぼんやりとプリントを受けとると、はっとしたように言った。
「あ、ありがとうございます! ……って、ええっ!?」
「あっ」
二人して、ほぼ同時にお互いに気がついた。
患者衣に隠れてはじめは分からなかったが、女の子の首には、小さな画面が着いた黒いチョーカーのようなものが巻かれていた。そしてデジタル表示の『100%』の数字も。
彼女は、僕が四月に告白されたあの一年生の女の子だった。なぜあの時一年生だと分かったのかと言うと、先輩、と呼ばれたのと、胸のあたりに付いたクラス章に『1-A』という文字が刻まれていたからだった。
「……はい」
「あ、ありがとうございます……」
僕はとりあえず、手当たり次第プリントをかき集めて、彼女に渡していく。
僕たちの間には謎の気まずさが発生していた。
受け取りながら、女の子の方が先に口を開いた。彼女は恥ずかしそうに言う。
「いやー。すみません、病室の窓、全開にしてたら風が吹いてきちゃって……まさか廊下の方まで飛んじゃうなんて」
「あー、それは災難だったね……えーと――、」
渡したプリントには、数Ⅰの問題が印刷されてあった。
「君は……一年生で良いんだよね?」
他に話題もなかったので、プリントを拾うのを手伝いながらそんなことを聞いた。
「そうですよぉー。あいにく長期入院中ですけど」
「長期……入院?」
そう聞き返して、残りのプリントを拾おうと膝をついた瞬間、僕の脚の下でグシャリ、と嫌な音がした。
「……あっ」
「へ?」
女の子は僕の膝に視線を落とすと、目をぱちくりさせた。
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