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酒場の小さな窓から秋の夕陽が差し込んでいる。そろそろこの酒場にも仕事を終えた街の男たちが、こぞってやってくるだろう。これから押し寄せて来る客のためにせっせとグラスを磨いていたマスターが、レンナートにちらりと目をやる。
「今日こそ早めに帰らないと、新妻が寂しがるぞ」
「ロゼッタは別に、関係ない」
「関係ないわけないだろう。この際だから言わせてもらうが、俺たちみんなロゼッタちゃんの味方なんだからな。お前が酔いつぶれたら、いつも迎えに来るのはロゼッタちゃんなんだ。あんなに心配そうな顔して、見ていてこっちが辛くなる。美人な嫁さんにあんな顔させちゃだめだろう」
「……余計なお世話だ」
そっけない口調でレンナートは答え、一気に麦酒の半分まであおる。酔いはまだ、来そうにない。
マスターは大げさにため息をついた。
「まったく、あんな美人を捕まえたっていうのに、しけた面しやがってよ」
「捕まえたわけじゃない。俺の腕がこんなんになったから、ロゼッタは同情して結婚しただけさ」
レンナートはポンポン、と自分の左肩あたりを叩く。筋骨隆々だった左腕は、そこにはない。
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