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「さいあく──ッ!」
わたしは三番島の展望デッキの柵を握って、思いの丈をおもいっきり空に吐き出した。
凌子と食べようと思っていた、特大のパフェ。生クリームとアイスとイチゴ特盛の。心の憂さを晴らすには、もうおなかいっぱい甘いものを食べるしかないから。
でもお店を訪ねてみたら、事前に予約が必要ですって言われてしまったのだ。
「ううう。言い出しっぺなのに、下調べが甘かった。ふがいないよぅ」
柵にすがりついて、えぼえぼと落ち込むわたしの背中を、凌子が撫でてくれる。
わたしたちが住んでる一番島が住宅ばっかりなのと違って、ここ三番島は観光スポットが多くて、展望デッキもちょっとした公園みたいにきれいに整備されてる。周りでは人が集まって景色を眺めたり、どっかで売ってるのかアイスやクレープを食べたりしていた。
「また……」
来ればいいじゃんとでも言おうとしたのか。でも凌子は、そこで口を噤んだ。
それ言ったら嘘になっちゃうもんね。
ごまかすようにわたしから離れた凌子は、アイスクリームを売っているスタンドを見つけて、そっちに歩いていった。
自分のせいで最後のデートを台無しにしてしまったくせに、すねた気持ちが湧きだしてくる。
どうしてわたしを置いていっちゃうの。
それは仕方ないにしても、教えてくれたっていいじゃん。ぜったい、誰にも言わないのに。
……なんて。お母さんのために黙ってるって、わかるけど。
「はい」
「……何味」
「ブルーベリーとバニラがあるよ」
ブルーベリーのほうをもらって、舐める。ひとくち食べると、冷たい甘さが口の中に広がった。
「また、来ようね」
どうして、わざわざ傷口を広げるようなことを言っちゃったんだろう。凌子は、アイスを口の中で溶かす間だけ時間を置いて、応えた。
「……うん」
嘘。
そう思ったら、たまらなくなって。
さいあくになってしまった最後のデートに、何か特別なものがほしくなってしまって。
相手に何も訊かないのズルいってわかってたけど、凌子に顔を近づけて、キスしてた。どっちの唇も冷たくて、アイスに入ってる甘い匂いがした。
「次の大会もがんばろうね」
「……うん」
また、嘘。
凌子とは卒業まで一緒に部活を続けて、いつかこういう関係になりたいと願ってた。凌子もそうなんじゃないかって、勝手に、ずっと思ってて。
自然にこうなるんじゃないかとか、思い込んでて。
こんな、途中でぶった切られるなんて、予想もしてなかった。
「これからも、よろしく……」
「うん」
凌子は少しずつ、嘘をつくのが早くなっていった。
それとも、気づいたんだろうか。わたしの顔があんまり間近にあるから、涙がこぼれないように目元にぎゅっと力を入れているのが、ばれてしまったのかな。
二回目のキスは凌子からだった。
言えないおわかれのかわりみたいに、優しく唇が動いて、わたしのそれを食んだ。
そして、その日がやってきた。
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