邪の道で君とデュオ

１

　司会進行の先輩に促され新入生の自己紹介タイムが始まる。ちなみに今はギターサークルによる新入生歓迎会の最中だ。
「工学部の山﨑です。この学校で機械工学を学ぶのが夢だったので、入学できて本当に嬉しいです」
　こんな大学に入ることを夢にするような馬鹿がいるのかとうんざりする。もちろんそれを表に出すほど愚かではないが、進んで仲良くなるつもりもない。

「光村くん、愛知出身なんだ！　俺もだよ！　すごい偶然だね！」
「あはは、そうだね」
　知らない奴がハイテンションで話しかけてきたが、何がすごいものかと内心嘲笑う。確かに地元からは少し離れているけれど、自分がこの大学を選んでいる時点で一人や二人同じ境遇が居ても不思議じゃないとなぜ分からないのか。
　コイツも馬鹿だ。関わらないようにしよう。

　といった具合に品定めしていくと、どうもこのサークルには馬鹿しか居ないらしいということが分かってくる。憂鬱だ。

　そしてそんな馬鹿だらけの中、さらに三馬身ぐらい先を行くウルトラ馬鹿が一人。
　そいつと出会った瞬間の俺の気持ちは、喩えるなら、前世で蹴られた馬に今世で再会したような気分、とでも言おうか。
　まぁ要するに、運命的なほど嫌な気分ってことだ。

「経済学部、音吹純平。ギターサークルがあればどこでも良かったので、家から一番近い千陽(ここ)を選びました」
　正直すぎる発言にさっきの山﨑？が渋い顔をしている。
「将来ミュージシャンを目指しています。アコースティックデュオでやりたいので相方募集中です。よろしく」
　……だったら音大でも行けよ。不快になるほどの馬鹿だな。
　無愛想な音吹の顔に対し、俺は誰にも聞こえないよう小さく舌打ちをする。

　その後も歓迎ライブやら立食パーティーやらいろいろと催しがあったはずだけど、俺の記憶のフィルムにはなぜか、奴のあの馬面な馬鹿面だけがくっきりと焼きついて消えなかった。