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✳︎✳︎✳︎  4月中旬。ギターサークルの親睦会として新入生十余名が大学近くのカラオケ店に集った。  俺は断るか悩んだ結果、最初ぐらい顔を出しておかないと後で輪に入りづらくなるだろうと思い泣く泣く参加を決めた。  集合場所には音吹も居た。悪目立ちしていたせいもあるだろうが、奴の名前だけちゃんと覚えていた自分に腹が立つ。  カラオケが始まるとそれぞれ挨拶がてら十八番を歌ってゆく。音楽サークルに入るだけあり、それなりに歌唱力に覚えがある者もいるようだ。  俺の番が来た。今流行りのミュージシャン「Show-Way」の曲を入れると、女の「きゃあ! Show-Wayだ!」と食いつく声がした。馬鹿は苦手だが、扱い易くて助かる。  適当に歌い上げるとカラオケルームは本日一番の歓声に包まれた。Aメロ、Bメロあたりはうろ覚えだったが、さっきの女が普通に大はしゃぎしているので特に問題は無かったようだ。  ちらと横目で音吹の様子を伺うと興味無げに曲選択用タッチパネルを弄っている。まぁ、別にいいけど。  音吹はおもむろにタッチパネルの送信部をカラオケ機本体に向けた。直後、盛り上がりの最高潮だったカラオケルームの空気は一気に萎む。
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