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「ねぇこれ、キルスト?」  画面に踊る禍々しいフォントの曲名を見てヒソヒソ声が上がる。 「Kill Street」。通称「キルスト」。独創性溢れる世界観と確かな技術で、一部音楽ファンの間で宗教的なまでに持ち上げられている男性デュオ。  一方「キルスタン」と呼ばれる彼らのファンはマナーが非常に悪いことで有名で、Kill Streetの暴力的な歌詞や音楽性がそのような人種を引き寄せるのだとまとめて批判する音楽ファンも多い。多いというか、ほとんどがそうだ。  つい先日には「キルスト」や「キルスタン」という呼び名の元ネタとなったキリスト教の教徒から「誤解を招く呼称はやめてほしい」とクレームが入るなど、ある意味今一番ホットなミュージシャンである。 「音吹くん、キルスタンだったんだ」  ほら。案の定、ドン引きしたような反応。  もちろん全てのキルスタンのマナーが悪いわけではないが、キルスタンというだけで嫌われるのが今の世の中なので、自らがキルストファンであることをひた隠しにする「隠れキルスタン」も多いのだとか。実際、ここまで大っぴらにキルスタンであることを明かす奴は初めて見た。  また同時に、ミュージシャンを目指す音吹が音大に行かなかった理由も察した。  奴がもしキルストのような音楽を志しているとすれば、型にハマった音楽理論だけでは不足だし(もちろん基礎を身に付けた上での話だが)、何より周りのたちからの目が痛いはずだ。  もし第二のキルストが生まれるとしたら、それは王道から大きく外れた邪の道からだろう。と、これはとある音楽評論家の言葉だ。  ギターテクを誇示するかのような長い長いイントロが終わり、音吹がゆっくり口を開く。次の瞬間、脳天に雷が落ちた。
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