おでこのにきび様

10/10
前へ
/10ページ
次へ
ひとりきりになった寂しさが胸の中にどんどん溢れてきます。もう、理性を繋ぎ止めることなんてできなくなりました。 「……ひーん」 うつむいたとたん、涙がぼろぼろとこぼれてきます。 別れの悲しさを知ることも、にきび様が教えてくれた、社会人としての成長なのでしょうか。 「もっと一緒にいたかったんです……まだまだいろんなことを教えてもらいたかったんです……」 わたしはにきび様のことを思い出し、つい、そうもらしてしまいました。 でも、世の中には勘違いってあるんですね。たとえそれが高坂先輩のような有能な方であっても。 高坂先輩は動揺した表情でたどたどしく答えます。 「俺はいつだって厳しいことを言いすぎちまう。それなのにそこまで俺を慕ってくれていたなんて……。そんな根性のある女性は君ぐらいなものだ。だから、もしよかったら――」 悲しいと、嬉しいと、恥ずかしいがいっぺんに襲ってきて、涙がとめどなく溢れ続けます。こうなったら枯れるのを待つほかありません。 「ひーん、ひーん……」 泣きながら、いつかにきび様が言っていたことを思い出します。 『真摯な努力というものは、予想外の恩恵をもたらすこともあるものじゃ。たどりつけばわかるじゃろう』 ひょっとしたら、今がその時なのかもしれません。 にきび様がいらしたひたいに手のひらを当て、わたしは高坂先輩の問いかけに答える決心を固めたのです。 「高坂先輩、聞いてください。わたし、これからも――」 ――まっさらな顔で前を向け、わたし。 おでこのにきび様の笑顔が、今でも鏡の向こうに見えそうな気がします。 【了】
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加