おでこのにきび様

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おでこのにきび様

★ ああ、まさか入社一年目にしてこんな仕打ちを受けるとは。 バスルームで熱いお湯を被りながら、わたし、川村由紀(かわむらゆき)は悪夢の日々を思い出しています。 わたしが入社した製薬企業「毎星製薬」では、新しいメカニズムで効くお腹に優しい便秘薬、『モーダスBV』を絶賛売り出し中でございます。 けれど新薬を病院で採用してもらうには、お医者様に需要があると認めていただかなくてはなりません。 でもまさか新人であるわたしが、お医者様たちの前で新薬のプレゼンテーションをさせられるなんて。仁科部長から突き付けられた、まさに身も凍る命がけの使命です。 シャワーを鏡にひとかけすると、見るに堪えない顔がそこに映りました。 要領の悪いわたしは残業続きで睡眠不足。口にするのはチンでできるレトルト食品。そして大仕事に襲われた底知れないストレス。 それらの三重苦の結果として、わたしの顔には隆々とそびえるにきび連峰が出現いたしました。先っちょは赤々としていて今にも噴火してしまいそうです。 バスルームで絶望に瀕していると、どこからか渋みのある声が聞こえてきました。 「おぬし、さては自身の無能さに悩んでおるな」 「だっ、誰!?」 驚き辺りを見回しますが人の気配はありません。幻聴だったのでしょうか、いや違います。 「ここじゃよ、ここ」 「ひえっ!?」 二度目の声を聞くと、どうやら声は至近距離から発せられているようでした。骨伝導に近い感覚です。 「川村殿よ、おぬしのおでこを見るがよい」 声の主はそういうので、わたしは慌てて自分の前髪をかき上げます。普段は前髪を下げておりますので、おでことは久しぶりのご対面です。 よく見てみますと、おおきいにきびがみっつ、ありました。 前髪の生え際のすぐ下にふたつ、眉間のすぐ上にひとつあるにきびは、ひとの顔のように見えてしまいます。人間は点がみっつあると顔として認識するらしいのです。 そのとき、高い位置にあるふたつのにきびがふにゃりと細長くなり、低い位置にあるにきびがぱっくりと口を開きました。 「ほっほ、ワシはにきびの神じゃ」 その声は確かに、ひたいのにきびから発せられていました。 「に、に、にきびが喋ったぁ~!」
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