おでこのにきび様

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★ 「に、に、にきびが喋ったぁ~!」 「ワシはおぬしを助けるために……むぐっ!」 喋り出したにきびをすかさず両手で押さえ脳をフル回転させます。 ――夢だ、これは夢だ、にきびが喋るわけがない。 なかったことにしたつもりでしたが、手のひらの下で何かがもごもごと動いています。 突然、手のひらに鋭い痛みが走りました。 「いたっ!」 にきびの仕業です! こともあろうに、にきびがわたしの手を噛んだのです! 手を離すとにきびは怒った顔をして、うろたえるわたしに向かってまくし立てます。 「逃げたってなんにも始まらないんじゃ! ワシに従い覚悟を決めて戦いに挑むが良い!」 「無理です! だって担当している病院のお医者様、毒々しいドクターばかりなんですもの!」 「見た目で人を判断するでない! しかもおぬしには頼れる指導者がいるじゃろが!」 どうやらにきびはわたしの置かれた状況を把握しているようです。 にきびはアクネ菌という名の配下を従え、男女構わず美を蝕む悪魔ですが、同時にわたしの体の一部であることは否定できません。前髪の隙間から事の顛末を覗き見していたはずです。 今まで傍観していたのかと思うと、ふつふつと怒りが湧いてきて、思わず自分のおでこを平手打ちしていました。 「ぶほっ!」 うめき声が聞こえてにきびは喋らなくなりました。その隙にわたしは前髪を下げ、にきびを前髪の中に隠しました。 これは高坂先輩のサディスティックな言動がストレスとなり、幻覚を見せたんだ。病は気からって本当なのだと自分に言い聞かせながら。 以来、おでこのにきびが声を上げることはありませんでした。
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