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「に、に、にきびが喋ったぁ~!」
「ワシはおぬしを助けるために……むぐっ!」
喋り出したにきびをすかさず両手で押さえ脳をフル回転させます。
――夢だ、これは夢だ、にきびが喋るわけがない。
なかったことにしたつもりでしたが、手のひらの下で何かがもごもごと動いています。
突然、手のひらに鋭い痛みが走りました。
「いたっ!」
にきびの仕業です! こともあろうに、にきびがわたしの手を噛んだのです!
手を離すとにきびは怒った顔をして、うろたえるわたしに向かってまくし立てます。
「逃げたってなんにも始まらないんじゃ! ワシに従い覚悟を決めて戦いに挑むが良い!」
「無理です! だって担当している病院のお医者様、毒々しいドクターばかりなんですもの!」
「見た目で人を判断するでない! しかもおぬしには頼れる指導者がいるじゃろが!」
どうやらにきびはわたしの置かれた状況を把握しているようです。
にきびはアクネ菌という名の配下を従え、男女構わず美を蝕む悪魔ですが、同時にわたしの体の一部であることは否定できません。前髪の隙間から事の顛末を覗き見していたはずです。
今まで傍観していたのかと思うと、ふつふつと怒りが湧いてきて、思わず自分のおでこを平手打ちしていました。
「ぶほっ!」
うめき声が聞こえてにきびは喋らなくなりました。その隙にわたしは前髪を下げ、にきびを前髪の中に隠しました。
これは高坂先輩のサディスティックな言動がストレスとなり、幻覚を見せたんだ。病は気からって本当なのだと自分に言い聞かせながら。
以来、おでこのにきびが声を上げることはありませんでした。
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